テレ娘。

「テレビで見かけた娘。さんたち」 略して、テレ娘。 テレビ好きの目線から、画面に映った娘。さんたちについて触れます。

※ことわりなくツイッターの発言をお借りする場合があります。不都合がありましたらコメント欄にてお知らせください。

鞘師里保の十七歳の地図

鞘師里保の十七歳の地図 - テレ娘。
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モーニング娘。のエースである鞘師里保が卒業を発表したのは10月29日のことでした。それからの2ヶ月は、正に矢の如く過ぎていったように感じます。

 

図らずも、春に予想したつまらない「もしかしたら」が当たってしまいました。

 

この春13人は渋江監督のMVで満開の桜で迎えられたけれど、来年の春モーニング娘。'16が今と同じ13人である確証はどこにもない、、、よくわからない寂しさってそういうことなのかなあと思えてきました。

 

渋江監督MV『青春小僧が泣いている』に描かれた新生モーニング娘。の夜明け - テレ娘。(2015.04.16更新)

やはりモーニング娘。は「今」を見なければいけない、常ならぬものなのだと噛み締めています。

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新生モーニング娘。としてのリスタートを強烈アピールしたこのMVをはじめ、今年リリースされたモーニング娘。'15の楽曲は、どこか一貫したメッセージを感じました。 

 

春・58枚目のシングル=始めること

今年の春にリリースされた'15最初のシングルは、コラボ曲の『イマココカラ』も含め、3曲ともスタートを切ることをテーマとしていました。

 

新しき生活

時に寂しく 時に切ない

だけど負けられない

頑張っていることは

私もそうね あの子もそうよ

だから負けられない

未来へ

 

/58th.シングル 夕暮れは雨上がり - モーニング娘。'15 - 歌詞 : 歌ネット

 

悲しい歌の様に思うかもしれませんが、前向きな気持ち唄ってます。
先に進むんだ。
前に行くんだ。
そういう気持ちを歌にしました。

 

モーニング娘。’15 4/15 Sg 「青春小僧が泣いている」「夕暮れは雨上がり」ライナーノー|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ

 

夏・59枚目シングル=飛び立つ決心

先輩の牽引の綱から放たれた新生モーニング娘。に求められたのは、自ら切り拓きブレイクスルーする意思と主張だったように思います。

 

片思いの人も 恋を寄せる人

居ないまま過ごすって 寂しいParadise

 

/59th.シングル スカッとMy Heart - モーニング娘。'15 - 歌詞 : 歌ネット

やりたいことを恋人に見立てる擬人化。つんく♂Pの得意技です。やりたいことが無いままでは張り合いがないということを表しています。現に、ライナーノーツには、恋について一言も書かれていません。

 

不慣れな新人12 期含めて人間だれしも褒められたいもの。 褒めて伸ばすなんて言うけど、本当だと思います。 ひとつひとつの出来事にまっすぐぶつかって行っている彼女達をこれからもたくさんたくさん褒めてあげてくださいね。

 

モーニング娘。’15 8/19 Sgライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2015.08.05更新)

 

ほめて欲しい、ここを見て欲しいと思えるような、本当にやりたいことを見つけるよう促しており、それは『Oh my wish!』でよりダイレクトに表現しています。

 

悩みもしたな 夢の途中

本当にみんな それがしたかったの?

 

 (中略)

 

キラキラと輝く為に

すべきこと

 

/59th.シングル スカッとMy Heart - モーニング娘。'15 - 歌詞 : 歌ネット

 

夢を持って入って来たあのときの気持にもう一度戻って新鮮な気持でまた未来に向かってほしいと思い制作すすめてきました。

 

モーニング娘。’15 8/19 Sgライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2015.08.05更新)

つんく♂楽曲は2番にメッセージが隠されていると言われますが、そこで直接的に、もう一度加入当時の野心を燃やせと発破をかけているんですね。そして、本当にやりたいことをやってこそ『キラキラと輝く』存在感が出てくるということも説いています。

「やっと、うるさい先輩居なくなったで!」「好き勝手やってええんやで!」って背中をポンっと叩いているような気がしました。

 

そして面白いのは、つんく♂Pが直接手がけていない3曲目が最もエモーショナルに、しかしつんく♂Pの2曲と違わぬテーマで決心の思いを語っていることです。

 

さあ、時の流れ

さあ、今すぐ飛び込む勇気を

やりたいことばかり

一日じゃおさまんないよ

 

/59th.シングル『今すぐ飛び込む勇気』 - モーニング娘。'15 - 歌詞 : 歌ネット

能動的な言葉が次々に出てきて、もう今にも体が動き出しそうな感じ。

 

このシングルに合わせて、「モーニング娘。'15の課題」というプロモーション映像が上がりました。課題とはそんな思いを実際の行動に移すことだったように思います。

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そして、次のシングルで、その「答え」にグッと近づきます。

 

「やりたいこと」に飛び込んだ鞘師里保

2011年、鞘師が加入して驚いたのは、やたら礼儀や態度の仕上がった子どもだったことです。「プロ意識を持った子ども」のイメージが強かったですよね。同年に放送された『マルモのおきて』の芦田愛菜を連想する声も聞かれました。

そんな鞘師を見て、わたしは村上龍の『13歳のハローワーク』(2003年)を思い出しました。

13歳のハローワーク

13歳のハローワーク

 

鞘師のご両親は40歳ぐらいだと聞きます。

偏差値重視の時代に育ったその世代って、「何をしたいか」よりも「どこに入るか」を考えてとりあえず進学してみたものの、「もっと前からやりたい事を見つけたかった」って後悔する人が多いんです。

そういった世代がパパママになった頃に出版された『13歳のハローワーク』は、子どもが将来の自分を具体的にイメージ出来る「おしごと図鑑」のようなガイドで、多様化の時代に求められる本として話題になりました。

きっと、ご両親は「やりたいことをとことんさせてあげたい」と考えて、幼稚園で『Go Girl ~恋のヴィクトリー~』を嬉しそうに踊る幼いりほちゃんのやりたいことを、何よりも尊重したんだと思うんですよね。

 

志を持って加入した少女は、ひとたび舞台に立つや目覚ましい活躍をします。

次々に大役を任され、つぶれてしまうんじゃないかというファンの心配もなんのその、必ず納得行く結果を出し、長い上り調子のモーニング娘。の真ん中には必ず彼女の姿がありました。

※追記:活躍ぶりはこのブログをpostした翌日に上がった卒業記念動画をぜひご覧ください。

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そうして、今年いよいよグループの先頭に立った少女。これまでの勢いそのままに、次のステージへ駆け抜ける決心も、また一瞬でした。

先日、インタビューの中で工藤遥がこんな話をしています。

工藤何となく、私は気付いてたんですよ。

中島デスク「ええ!そうなの?」

 (中略)

工藤「発表がある一週間ぐらい前だったかな、コンサートで地方に行った時に、鞘師さんとホテルの部屋が一緒だったんですよ。」

中島デスク「泊まりの部屋が、一緒で」

工藤「二人同じ部屋だった時に、鞘師さんが『マネージャーさんの部屋にちょっと行ってくるね』って出てってからなかなか戻ってこなくて。『どうしたんだろうなあ』と思ってたら、目を真っ赤にして戻ってきたんですよ。その時は何も触れなかったんですけど、何かそれを見た時に、きっと鞘師さん自身抱えてた辛いことだとか、グループに対して思ってることを相談したのかなあと思って、それで少し『ん?』と思ったりはしてたんですけど。」

中島デスク「それ、場所どこだったの?」

工藤北海道です。」

auヘッドライン『アイドルもういっちょ!』(2015.12.11配信)

秋ツアー『PRISM』の北海道公演は10月24日のこと。

わたしはブログの発表を見た時に、漠然と、止める人ではなく背中を押してくれる人がいたように思ったんですが、工藤の話を聞いて辻褄が合ったような気がしました。

それが北海道公演の前の週の出来事。

 

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まだ載せてなかった写真載せます♡

大好きな後輩、鞘師と久々デェトしたの!

たまたま帰りにバッタリ会って
茶しよう!ってことになったんだ( ´艸`)

こうして2人ではなすのははじめて?に近かったから
いろんな話が出来てよかった♡

 

りほりほ|高橋愛オフィシャルブログ「I am Ai」Powered by Ameba(2015.10.14更新)

 

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池袋で偶然モーニング娘。’15の鞘師りほちゃんに会いましたо(ж>▽<)y ☆

またこうして偶然出会えるなんて、もはやこれは運命だな、と。
(そう思ってるのはわたしだけかもですが..hahaha...)

 

また!?|高橋愛オフィシャルブログ「I am Ai」Powered by Ameba(2015.10.16更新)

悩みに悩んだ末、後押ししてくれたのは、かつて憧れたリーダー高橋愛だったのではないか……そんな確信めいたものを感じていました。 この日のことはラジオでも話しています。

鞘師仕事終わりに電車に乗ってたらたまたま会って。それで、一緒にデートに行くことになったんですけど。」

さんま「たまたま会うたの!?(笑)」

鞘師「たまたま会いました! あの、つい2日前もたまたま池袋で会って。

さんま「あいつ、なーにウロウロしとんねん。」

鞘師「池袋にはイベントで出演されてて、それで高橋さんが出てるっていうのを、私もイベントの周辺に居たので、『あれ?』みたいな感じで、出番終わって『高橋さーん!』って言ったらもう『あぁ~!』みたいな感じになって、最近そんなことが多くて」※少し興奮状態で話す。

さんま「それで、どんな話したの、高橋と?

鞘師「仕事の話もしますし、ダンスの勉強どうしようか』とか『ダンス習いに行きたいんですけど……』とかそんな話もしました。

さんま「そうかそうか。高橋と、あそこの旦那とも約束してるからねえ。連絡したらなアカンなと思うてんねんけど。」

鞘師『いつでも呼んでいいからね!』ってすごく言ってくださって、私、友だち居ないから毎日呼びたいです(笑)

 

MBSヤングタウン土曜日』(2015.10.17放送)

※ちょっと意地悪な発想ですが、こんなタイムリーにしかも2度も偶然出会うだろうかと考えてしまったり……。もしかしたらどうしても頼りにしたい思いが積もり積もって、夢遊病のようにふらふらと、気がつけばイベント会場前で待ち伏せたりしてたのかも、とか。

高橋愛は、いつかブロードウェイの舞台に挑戦したいと夢を見ながら、当時「エースで四番」と形容されるほどの重責を背負ったまま、二十代半ばまでモーニング娘。に在籍し、未だに夢半ばです。

鞘師も同様に、生来の職人気質でありながら真ん中に立ち、'15ではモーニング娘。の先頭として「モーニング娘。を引っ張らなければいけない」という思いに縛られます。

考えすぎる子なのでたぶん物凄く悩んだと思うんです。いつしか「思い切りダンスがしたい」という自分の意思とやらなきゃいけないことがズレていることに気づき、しかし気づきながら目をつぶっていたんじゃないかと思うんです。

そんな同じ境遇を十二分に察して、かつてのリーダーはかつての新人に、迷っていた気持ちをグッと前に押してあげたのではないかと思うんですよね。まるで、かつて時に涙しながら叱ることもあったあの日のように。

 

振り返ると、ほぼわたし1人が喋ってたけど。。w

大丈夫だったかなぁ…鞘師疲れたかな…( p_q)

って今更後悔w

 

りほりほ|高橋愛オフィシャルブログ「I am Ai」Powered by Ameba(2015.10.14更新)

 

バッタリか待ち伏せかなんていう邪推はともかく、悩めるエース・鞘師は、自分が心から慕う人に会って、そして相談をしました。

運命のターニングポイントで高橋愛に逢ったこと、それはきっと鞘師の人生の「必然」であったに違いありません。

 

 

水鳥みたいにね そう

飛び立とう

 

/59th.シングル 『今すぐ飛び込む勇気』 - モーニング娘。'15 - 歌詞 : 歌ネット

「水鳥みたいに飛び立とう」と決断した少女がどのように成長を遂げたか。それは60枚目のMVに現れていました。。

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秋冬・60枚目=旅立ちの歌

急遽アナウンスされた60枚目のシングルは、鞘師の卒業発表の後ということもあり、もっぱら鞘師への当て書きであるように考えがちですが、モーニング娘。'15全体にとっても、この一年の「答え」に該当する楽曲群であるように思います。

キーワードは、飛び立つ水鳥、そして羽根です。

 

『One and Only』

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最初の歌披露の時点で、辞書を片手に『J-MELO』の英語字幕を読んで、歌の主人公の男の子が唯一無二の女の子を新しい場所に連れ出そうとする、童話のようなお話をイメージしました。

もっと言えば、「You are courageous and so brave.(君はたくましい)」の辺りで、サーベルを差した西洋童話の主人公を想像して、かなりビジュアルのイメージまで浮かんだんです。森の奥の湖のほとりに座る女の子の前に、迎えに来た王子様が現れて、新しい場所に向かおうと手を差し伸べるような、ディズニー映画のように色彩鮮やかなシーンでした。

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(参考:『眠れぬ森の美女』)

女の子には自分自身も知らない魅力があって、それを王子様は見抜いていて、森から抜けだして外の世界に行ってみようと誘っているような……。

王子様願望のあるつんく♂Pは、実際に奥様を福岡に迎えに行った人です。主人公の王子様がつんく♂Pで、女の子は娘。にも思えたし、愛娘のHotzmicちゃん*1のようにも思えました。

 

ホントに第一印象で、まだシングルリリースも決まっておらず、まして鞘師卒業なんて想像だにない頃の純粋なインスピレーションだったのですが、そんな童話の世界の「王子様と森に棲む少女」の発想は、以降もわたしの中の発想の土台として残ります。

 

『ENDLESS SKY』

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つんく♂Pのライナーノーツには、まるで卒業式の校長先生の送辞みたいな言葉が並んでいました。

 

みんないろんな夢を抱いてモーニング娘。のオーディションを受けてくれたと思います。
あの時の気持ち、決して忘れたわけじゃないと思うけど、でも、日々の忙しさの中で、ついその場の課題をこなす事が精一杯になってしまう事も多々あると思います。
でも、僕自身は、この曲は、桜咲く季節の卒業シーズンに、たくさんの人に聞いてほしいなって思って作っています。

 

モーニング娘。’15 12/29 Sg 「冷たい風と片思い~」ライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2015.12.07更新)

 

そんな楽曲を受けたMV映像はいかにも清々しく、中でも、飛び立つ彼女たちを表現する上で羽根を使った演出が特徴的です。

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-- Q. 羽根の演出について

富士丸ディレクター「羽根を降らせて、まあ羽根が降ってきたりとかっていう、その鳥が羽ばたく時に、羽ばたいたからこそ落ちていく羽根であったり、もしくは、先に巣立っていったというか、先輩方とかはもう飛んで行ってるんで、その先輩たちとか…偉人まあ偉い人たちじゃないですけど…が落としていった羽根の中でリップしたりして、その先に私たちも行くというような意味で羽根を使ってます。」

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/『GREEN ROOM #34』(2015.12.17配信)※06:56

富士丸監督の「羽根」の発想、過去の歴史とつなげる要素として用いているんですよね。*2

で、ここで大事なのは、「羽ばたいたからこそ落ちていく羽根」という説明です。ハ虫類の脱皮やセミの抜け殻のようなものです。セミが頑張って孵化する状態が非常にデリケートであるように、何か新しいことに挑戦する時は、不安定だったりリスクや心身の負担があったり、時に痛みも伴うかもしれません。

次のステージに進む者は、それらを恐れぬ勇気があるからこそ成長する。そういった勇気のある全てのエラい人(富士丸監督も「偉人」と言っています)の抜け殻がそこにある。

すなわち、落ちた羽根は「飛び込む勇気」を持って成長した証だと言えると思うのです。

それらに包まれながら自分もついて行く。同じ目的を持つ者にとって、抜けた羽根はこれ以上ない「お守り」になるに違いありません。娘。に歴史があり先輩が居る幸せってそういうところにある気がします。

 

お守りの羽根が見えてきたということは、すなわち、もう飛び立つ場所まで足を踏み入れたことを表します。

 

冷たい風と片思い

 

鞘師のラストソロ曲として書き上げましたが、シングルの一曲目になるということもあって全員で歌唱することになりました。

 

モーニング娘。’15 12/29 Sg 「冷たい風と片思い~」ライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2015.12.07更新)

つんく♂Pがライナーノーツで触れている通り、鞘師の曲です。結ばれるかどうか分からない恋人に対しては、自ら別れる決意をすることを良しとする歌。

モーニング娘。を恋人になぞらえ、自ら決意した鞘師を後押ししています。

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鞘師のソロダンスを見ていて、以前、インタビューの中で触れていた、「バレエが上手な11歳の女の子」の動画を思い出しました。世界中から注目を受け、10億回以上再生されています。

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今回バレエの要素を取り入れた鞘師のダンスは、この女の子に挑むかのように、芸術表現への繊細なこだわりが感じられました。

また、白から黒への衣装の変化も、白鳥と黒鳥の出てくる『白鳥の湖』を演じるバレリーナを連想します。

白鳥の湖』の物語はこうです。悪魔に白鳥の姿に変えられた主人公オデット。夜の間だけ元の姿に戻れる彼女が湖のほとりに居ると、そこに現れた王子様に見初められる。しかし、それを知った悪魔は、見た目はオデットにそっくりだけど邪悪な心を持つ黒鳥オディールを遣わせる。オディールによって王子様の心は黒鳥に奪われてしまい……。

バレエの中で、通常、白鳥オデットと黒鳥オディールは同じバレリーナが演じます。すなわち、主人公を任されたバレリーナは純真さ(白)と強欲さ(黒)の両方を演じ分ける必要があるのです。

それがどれだけ大変なことか、この瞬間の産みの苦しみに現れていました。

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鞘師が変身を遂げる荒々しさは、『白鳥の湖』の公演を行うバレエ団を題材にした映画『ブラック・スワン』でも見られます。

ブラック・スワン (字幕版)

ブラック・スワン (字幕版)

 

この映画で、ナタリー・ポートマン演じる純真なニナは、主人公に抜擢されるのですが、監督から黒鳥の官能的な表現が演じ切れていないと叱責され、周りから嫉妬され、主役を横取りしようとするライバルから悪い誘惑を受けます。様々なプレッシャーにより自傷癖に陥り幻覚に悩まされるニナは、想像を絶する追い詰められた状態の中、ライバルを刺し殺すことで狂気の心を覚醒させ、ついに黒鳥を完璧に演じ切ります。*3

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映画『ブラック・スワン』新予告編 - YouTube

少し似た境遇にある気がするんですよね。

純真無垢な小学生が、いきなりモーニング娘。の体育会文化と芸能界のしがらみが混じり合う難しい環境に入り、一人で抱え込む性格を抱えながらセンターを務めるプレッシャーは想像を絶するものでした。

先日のインタビューも胸が締め付けられる思いでした。

鞘師「今まで大きなステージに立つ度にあがっちゃって、緊張してしまって2日前ぐらいから体調を崩すんですよ、本番の。毎回当日にリハーサル終わった後、点滴を打つのが恒例になってしまってたんですよ。」

中島デスク「昨日おととい(12月8~9日の武道館公演)も?」※12/9(水)にこのインタビューを収録。

鞘師「今年から無くなりました。」

譜久村「強くなったんだね。」

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auヘッドライン『アイドルもういっちょ!』(2015.12.21配信)

プレッシャーによる体調不良に耐え続けた数年を経て、今年から体調を崩さなくなったと鞘師は言います。すなわちプレッシャーを跳ね除けられるようになったのです。この境目こそ、鞘師がホワイト・スワンからブラック・スワンへ変わる潮目であり、同時に、次のステージを模索し始めたタイミングでもありました。

変身には痛みを伴うものです。『ENDLESS SKY』で飛び立つときに羽根が抜け落ちるたとえがありました。きっと鞘師が体を震わせてブラック・スワンになった瞬間、多くの白い羽根が抜け落ちたと思うんです。ストレスがかかる状況で勇気を振り絞り、そこで生じた激しさが、スローモーションで映された鞘師の黒髪の跳ねる様子にありありと現れていて、非常に生命力あふれる映像になっています。

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MVの解釈としては、白衣装=モーニング娘。の活動黒衣装=将来の野望を表しているように感じられます。鞘師は「白」と「黒」の両方を踊ることで、自分の歴史を表現しているのです。

つまり、白衣装で、激しく踊る部分にこれまでの挑戦だったり、摺り足の移動に迷いや苦しみやプレッシャーなど悶々とした思いを込め、また、覚醒した後の黒衣装では、今後の野望や期待感を表現しているように感じられました。

また、変身を遂げるシーンで象徴的なのは、白から黒に変わる瞬間を誰も見ていないことです。

鞘師が卒業を決意した瞬間をメンバーの誰も知らなかったように、周りの誰も見ていない中で変化を遂げるということは、「結局最後に自分を変えられるのは自分しか居ない」のだと訴えているように思いました。卒業(=ひとり立ち)ってそういうことなんだと思うんですよね。

ただ一人、鞘師が純真な白鳥だけでなく野望を持った黒鳥を演じきったこの映像は、彼女が卒業試験にパスしたことを表すようで、また、それに値する存在であることを納得させる凄味がありました。

※ここまで書いたところで、GREEN ROOMでMV撮影の舞台裏が上がったので、参考までに以下にピックアップ。ソロダンスの部分は、鞘師の魅力を引き出す工夫が施されている。

YOSHIKO先生「歌詞の言わんとする裏の部分の気持ちとか、『結局どういう意味なんだろう…』みたいに思えるのを、ダンスで表現できたらなあと思って。なので、ちょっと感情的というか激しい感じというか、そういう感じでソロダンスにしました。」

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神口ディレクター「もう鞘師さんはほんとハローの歴史の中でもダンサーとして突出した存在だったので、そこはスポットライトで、もう(卒業の)花道としてガンと見せています。 (中略) 僕はモーニング娘。は4本目なんですけど、最初に鞘師さんを撮ってた時から感じたてたのが、存在感が強い子なので、彼女に対して期待だとか、すごい助けられてる部分も多くあったので、鞘師さんのはなむけとしていいものになればいいなと。」

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/『GREEN ROOM #35』(2015.12.24配信)※32:30

 

一方、鞘師の変身の瞬間、背を向けていた他のメンバーは、まだ少しわだかまりの表情。。

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ずっと片思いをしている人がいる。
ずっと側に居たいから片思いしてる事は絶対にバレたくなかった。
でも、もう少しで、もしかしたら離ればなれになってしまうかもしれない。
そう思った時、このまま気持ちが届かないままで良いのか、と胸が苦しくなってしまった。
そんな曲です。

僕のお気に入りのフレーズは「離れ離れになるなら 一人ぼっちで居れるよ」です。
この相反する言葉の並び。
永遠に会えない状態になるくらいなら このままずっと会えなくっても、いつか会えるかもしれないって思っている方が幸せ。
そんな心の現れです。

 

モーニング娘。’15 12/29 Sg 「冷たい風と片思い~」ライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2015.12.07更新)

すごく好きな人だけど、いずれ離れ離れになってしまうかもしれない関係性。その思いを振り切るためには自分から決心しなければいけないのだと察する。そんな不安定な思いを抱え、彼女たちはそれぞれ憂いの表情を浮かべます。

ここでも擬人化を使ってモーニング娘。を恋人に喩える掛け合わせが効いています。

大好きで入ったモーニング娘。は、情熱を傾けられる場所だけれど「必ず卒業という別れが待つグループ」であることを知っているし、いつか決心しなければいけないことも理解している。鞘師の卒業により、これまで以上にその事実をリアルに感じてしまった……そんな悲痛な表情にも取れるのです。

そういった意味で、恋愛への切ない表情が鞘師との別れの憂いにも見え、また、ファンは彼女たちの表情から鞘師との別れを連想するけれど、何も知らずに見た人は恋愛の切なさの表現に見える。そういったダブルミーニングを忠実に再現する秀逸な映像になっています。

 

 

こうして今年リリースしたシングル9曲とそのMV映像は、まるで組曲のように連鎖して、新生モーニング娘。が次のステージに向かう様子を表現していたように思います。

もっと言えば、過去映像からも、ずっとつながっていました。

湖のほとりに集まってきて楽しく群れていたはずのひな鳥たちは、いつの間にか、それぞれが自分の行き先を見据えて上を向き、やがて飛び立っていく。

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モーニング娘。には物語的な側面がありますが、現実の彼女たちと楽曲と映像とが、こうしてすべて合致しているのですよね。

 

つんく♂Pはメンバーに対して、モーニング娘。を最終目標とはしないよう言いつけているといいます。渡り鳥が空気を察して本能的に飛び立つように、いずれ旅立つ瞬間をさとります。

 

その瞬間をいち早く察知したのが、誰あろう、人一倍真摯に取り組んできた鞘師里保であったことは、ある意味当然の流れであったのかもしれません。

 

 

十七歳の地図

今から二年前、生まれ変わったモーニング娘。が大きく世に出る気配を見せていた頃、15歳という不安定な年頃の鞘師が、プレッシャーを抱えてしまっていないか、周りに相談してもいいんじゃないか、という思いをpostしたことがあります。

telemusume.hatenablog.com

 

「そんな自分、ちゃんとした人間じゃないくせに完璧主義みたいな性格なところがあって。なんか『あれも出来なきゃ』『これも出来なきゃ』『ここちゃんとやんなきゃ』みたいな。」

「変に完璧主義なところがあって。もともと出来る人ならいいんですけど。出来る人ならいいんですけど、あたし出来ないのにそういうところがあるから、ちょっとそれは自分でも嫌だなあっていうところが……ありました。」

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/『モーニング娘。’15鞘師里保卒業メモリアル』

 

道重リーダーと過ごす残りの時間の中でだいぶ心癒されることがあった。

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/『ハロ!ステ』#89 番外編

 

「そのままの鞘師がいい」という言葉は嬉しかった。

でも、彼女は「アイドル」という存在の無力さを嘆いていた。

 

――素晴らしいです!では、最後に。鞘師里保にとってアイドル、とは?

アイドルとは、ただの人間です。自分ひとりでは、何も
できません。アーティストのように、自分で曲や詞も作れないし、
仕事も見つけてこれないし、応援してくれる人がいなければ、
ステージに立つこともできません。スタッフさん、ファンの
みなさんが、輝く場所を用意してくれるから、アイドルはそこで
育つことができるんです。だから、アイドルは全ての人に
感謝だなって思います」

 

/『週刊少年チャンピオン』2015年4月30日号

※引用元:ハロニュー。:一週間経ったので「週刊少年チャンピオン」での鞘師りほりほのインタビューを書き留めておく

 

何も創作できず、世間のことも知らず、自分で自分の良さも分からない。

そんな自分の些細なことに関心を持ってくれる人がいて泣き出してしまった。

 

実は、イメチェンの話した時に
たっくさんコメントくださっていて

こんなにもたくさん、
私の相談にのってくれるひとがいるんだって嬉しくなって
1人で泣いてました鞘師里保です笑

 

本当に本当に。。鞘師里保|モーニング娘。‘15 Q期オフィシャルブログ Powered by Ameba(2015.01.15更新)

鞘師「号泣しちゃって。人から見られてないんじゃないかなと思ってたから

MBSヤングタウン土曜日』(2015.01.25放送)

 

見られていることを喜びつつ、自信を持てない自分なんかを多くの人が見守ってくれる恵まれた環境に疑問も感じる。

そんな複雑な感情がもやもやすると、何に悩んでいるのかさえ分からなくなった。

--「ほめてま川柳 ほめ短歌」のコーナーにて。

鞘師「『悩みはね 自分で解決 しちゃいます』」

さんま「そういうタイプなの?」

鞘師「そういうタイプですね。なんか人に言おうとしないし、何で自分が悩んでるか分からないんですよ、原因が。だから人に言えなく、一人で発散したりとか。」

さんま「まあこいつらは16歳やからな。勝手に悩むわな。」

  (中略)

鞘師「何かしら溜まっていくのかなあ、と。」

さんま「俺が鞘師やったら堪えられないと思う。こんな縛られた中でいるのは、すっごいイヤやね。

MBSヤングタウン土曜日』(2015.04.04放送)

 

縛られていることは、きっと気づいていた。でも、何がしたいのかも分からず、しがらみの中、目の前はやらなければいけないことで山積み。

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「あたしも外に出たいよ。出てるけど。出たいよ、敷地内から。いいな。いいな。外出たいです……」

/MORNING MUSUME DVD MAGAZINE Vol.78

 

その時、どうしてもと頼み込んで、長良川を目の前で観た。

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もやもやを抱える中、走り切った春ツアーの千秋楽の武道館は達成感に満ち溢れていた。

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その翌日は17歳の誕生日。何か変えられるかもしれない……。

 

私の17歳の目標は『有言実行』です!

 

17歳!鞘師里保|モーニング娘。‘15 Q期オフィシャルブログ Powered by Ameba(2015.05.28更新)

 

この時、彼女は思い切って、自分の居場所を見つめ直したのではないだろうか。

今の自分がどこにいるか、これから向かう場所はどこなのかを思い浮かべ、心の内の「十七歳の地図」を描いてみたのではなかろうか。

 

ちっぽけな俺の心に 空っ風が吹いてくる

歩道橋の上 振り返り 焼けつくような夕陽が

今 心の地図の上で 起こる全ての出来事を照らすよ

Seventeen's map

 

尾崎豊 / 十七歳の地図 - YouTube

 

もしかしたら、ぼっちな鞘師は本当に歩道橋の上でたそがれたこともあるかもしれない。事務所の近くの歩道橋から、東京タワー横目に夕陽を眺めてみたりして。

ひとり静かに、沈む夕陽を全身に受けて、心の地図を陽の光に照らしてみたら、モーニング娘。の居るところとは違う、遠い場所が描かれていた。

今そんな場所に行けるわけない……。そう考えた時、父であるつんく♂Pは楽曲で背中を押し、憧れの先輩の高橋愛も励ましてくれた。本当に彼女を縛っていたのは、実は彼女自身の「背負わなければ」という思いだったのではないか。それに気づいてしまったのではないか。

そういうことであったように思います。

 

 

 

しながわ水族館に行ったって言ってましたよね。まーちゃんと一緒に。

 

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この間、佐藤まーちゃんと
しながわ水族館に遊びに行ってきましたよ(^^)/

イルカショー見たり、
優樹ちゃんが異様に電気ウナギに反応してたりして、
あっという間の時間でした♪
楽しかったね(^^)

 

水族館へ!鞘師里保|モーニング娘。‘15 Q期オフィシャルブログ Powered by Ameba(2015.10.21更新)

 

ここは区立公園の中にある施設で、同じ敷地内に遊歩道や庭園風の池や、スポーツ施設などもあります。子どもから大人まで近隣の人たちが楽しめる場所になっています。

で、その池には白い水鳥も生息しているんです。わたしが遊びに行った時には、水鳥を撮影するカメラマンの姿も見られました。

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水鳥は、のほほんとしてました。

時おり水辺の岸から岸へと飛んで移動したりはするんですけど、大きく飛び立って周囲を囲む綺麗に手入れされた松林を越えて外の世界に出て行こうなんていう気配は感じられません。

別に、公園全体が大きな網で囲われていることもなく、空は確かにつながってるのに、どこか隔てられてるような印象を受けたんですよね。

あの日、「しゅわぽく」の二人は水鳥を観たのかしら。。仮に、観たとして、どう思ったのかしら。。想いがよぎります。

 

愛ちゃんとのデートがあって(10月14日、16日)、水族館に行って(10月21日)、工藤が見た目を真っ赤にした一夜があって(10月24日)、9期には卒業発表の数日前に話したと言っていましたが、メンバー全員へ伝えるとまもなく公式発表して(10月29日)、直後の地元広島公演で直接自分の言葉で報告して(10月31日)、一週間後の大阪公演では60枚目のシングルリリースが発表になり(11月7日)、……ドラスティックな'15のラスト2ヶ月は、あっという間にあと数日を残すのみとなりました。

 

飛び立つ水鳥のその先は、遠くに移ることだけが正解ではありません。上空に飛び上がり、また近くに戻ってくることもあるでしょう。

ただ、大事なのは今よりももう一段高く飛び上がってみることなんだろうと思います。

卒業が寂しくないと言ったら、それは嘘になります。でも、これは地図を広げて飛び立つ鞘師だけの旅立ちではなく、この一年間飛び立つ歌を唄い続けたモーニング娘。'15全員の旅立ちを表します。

 

スタートすること自体が一年のテーマであった'15の「課題」に対する「答え」とは、そういったことだったような気がします。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

「泣くわけないでしょ 泣くはずがない」を泣きながら唄った最後の娘。単独。この後「おかしいな 涙止まらない」と続くこのパートに涙を添えたのは、バラードの世界観に入り込み涙を見せる高橋愛に追いついた「モーニング娘。鞘師里保」としての一世一代の場面でした。

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*1:Hotzmic - I’m a lady now - YouTube

*2:先日の楽曲大賞の記事にも書きましたが、『青春小僧が泣いている (Another Ver.)』の大量の桜の花びらは「時間を圧縮させる試み」だったのだそうです。花びらや羽根といった小さなアイテムを空間に散りばめて時間的な奥行きを表現する仕掛けが素敵だなあと思いました。

*3:ピンと来ない方は、『新世紀ヱヴァンゲリオン新劇場版』で暴走モードになる場面を想造してもらうまでの、鬱々とした碇シンジが狂っていく心の葛藤に置き換えていただければと思います。