テレ娘。

「テレビで見かけた娘。さんたち」 略して、テレ娘。 テレビ好きの目線から、画面に映った娘。さんたちについて触れます。

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渋江監督MV『青春小僧が泣いている』に描かれた新生モーニング娘。の夜明け

渋江監督MV『青春小僧が泣いている』に描かれた新生モーニング娘。の夜明け - テレ娘。
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先日、モーニング娘。'15となって初のシングル『青春小僧が泣いている』MVの「Another Version」が公開され、待ち望んでいたファンの間で大変好評です。

 

これは昨年末にフジテレビで放送されたオーディション特番『THEビッグチャンス』(2014.12.29放送)にて、地デジの視聴者投票により選ばれた渋江修平監督の作品です。

 

このお方、スタジオゲストで来ていたバカリズムに、「渋江さん、これ褒め言葉ですよ…変態ですよね?」と言わしめた奇才です。バカリズム自身が独自の奇抜なネタを武器にする変態(褒め言葉)であり、そのバカリズムをして「変態ですよね」と言わしめるという、何か底知れぬものにわたしたちは吸い寄せられたのかもしれません。

 

 

渋江監督は、自身のTumblrで過去の作品を公開していますが、そこに並ぶ映像にはいくつかの特徴があります。

以下は、渋江監督の作品のダイジェスト動画。

サムネイルにあるFFを模したMVに代表されるように、格闘ゲームの背景になりそうなふすまの間であったり、『ピクミン』に登場する巨大生物と相対するような場面であったり、ゲーム画面のような設定が用意されています。

また、そのほとんどが舞台を真正面からとらえた平面で見せる世界観であることと、現実に寄り過ぎない非日常の設定が描かれているという点でも共通しています。あえて映像にノイズ線を加えることも多く、ヴァーチャルの世界を描くことがお好きなご様子。

それは今回のMVでも、真横からのフレームしか用意していない列車や、その列車で起きる奇妙な展開にも通じるところです。

 

また、オーディションで勝ち抜いた映像は、名画『最後の晩餐』を模した食事会の席上、上辺の会話をしているメンバーたちが急にステーキの取り合いになって、リーダー譜久村が皿を奪って疾走し、それを他のメンバーが追うという奇抜な設定(……と書いていても観ていない人にはさっぱり分からないのでTumblrのエントリーをお借りします)で、それをCGを駆使してゲームのような展開に仕上げていました。

http://shuheishibue.tumblr.com/post/107218168246/morning-musume-14-selfish-easy-going-jokes-of

shuheishibue.tumblr.com

 

脈絡もないものを集めて独自の世界観に引きずり込む、『ウゴウゴルーガ』や『せがれいじり』を手がけたクリエーター・秋元きつねのようなタイプの、かなりの「変わり者」だなあという印象を受けました。

 

 

 

奇才が描いた娘。の半年間

 

詳しい考察は、こちらのスレまとめ以上のものを見つけるのは至難です。これが即座に出るんだから参りましたとしか言い様がない。

モーニング娘。'15『青春小僧が泣いている』渋江監督ver.考察スレ : ハロプロキャンバス モーニング娘。'15『青春小僧が泣いている』渋江監督ver.考察スレ : ハロプロキャンバス

 

従いまして、当postでは、まとめを踏まえつつ「こんなことも言えるのでは?」という、わたしの勝手な解釈(妄想)を並べてみたいと思います。

 

再び取り込まれたダ・ヴィンチ

動画の冒頭、タイトル直後に現れるダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』を模したポーズ。

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オーディションにて『最後の晩餐』を引用した続きだと思いますが、用いられているラートが正円であることから、いつまでも回り続けることを何かにかけようとしているのかも。。

 

 

この先の本編は、オーディションと異なり、かなり今現在のモーニング娘。をテーマにして展開していきます。

 

 

明確なスタート地点

【Morning】駅と【Morning】駅の間にある【Evening】駅。ここが映像の出発点になります。

ホームにたたずむ12期4人。

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そして、線路を挟んだ向こう側のホームで応援している先輩たち。

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このチアダンスの衣装、ファンにとっては記憶に新しい昨年の秋ツアーの衣装なんですよね。

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このことから、この映像はこれまでのモーニング娘。から新しいモーニング娘。へ向かう準備を行う「夜」の間のお話。12期が加入した日からの半年間をあらわした物語なのだと分かります。

 

 

列車への乗車=12期の第一歩

第一歩を踏み出した列車の車内、4人が白のブラウス姿で見やっているのは、自分の特技や特長を披露する先輩メンバーの様子。

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ざっと、こんな感じ。

  • 譜久村:フラフープ
  • 生田:自撮り
  • 鞘師:柔軟ポーズ(ビールマン)※後に書道の真似も出てくる
  • 鈴木:食べること大好き、膝の上にぬいぐるみのちゃーちゃん
  • 飯窪:褒めること
  • 石田:だーいし感 ※後につり革を掴んで「あたしの方が背が高い」と主張する場面が出てくる
  • 佐藤:奔放に甘える仕草
  • 工藤:男子っぽさ ※後に壁ドンが出てくる
  • 小田:歌が好き

特技というよりも好きなことを好き勝手やっているようで、いかにも楽しそうな様子が伝わってきます。ゲーム画面に置き換えると「電車の車内=バトルのステージ」のように見えるこの構図を見て、武道館公演を思い出しました。そう、2014年9月30日の12期お披露目の日です。

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あの日わたしが会場で見たのは、純白のワンピースに身を包み何もかも無垢な姿で現れた新メンバーの初々しい様子と、武道館さえも狭いとばかりに大舞台を存分に楽しむ既存メンバーの溌剌とした様子でした。

道重リーダーに迎え入れられた4人を見て「カワイイーー!!」と悲鳴のような声をあげた9名。とてもあたたかく出迎えていたのが印象的で、それをなぞるかのような場面が待っています。

 

舞台の真ん中へ迎え入れる生田。

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しかし、席に着いた途端、状況は一変します……。

 


加入後の挫折

優しく迎え入れられて座席に着いた途端、気が付くとそこは列車の屋根の上。

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車内が武道館のステージだとすれば、ここは舞台裏でしょうか。

華やかに迎え入れられた4人ですが、お披露目の直後から様々なものが見えるようになります。それは「モーニング娘。」という肩書を背負った者にしか分からない、歴史の重圧、大量の過去楽曲、スタッフや先輩メンバーとの接し方、独自の内部ルール、過密なスケジュール、私生活での制約、学業との両立、等々。様々な物事がものすごい勢いで目の前を飛び交います。

加入後のこの時期は、いつの時代のどのメンバーも変化が大き過ぎて呑み込むことが出来ず、苦労させられます。避けては通れない娘。の洗礼の儀です。そのめまぐるしい様子が、初めて体感する列車のスピードの速さにあらわれて見えました。

景色も見えないほど混乱して、どっちに走っていいか分からない。そうして闇雲に駆け抜けて飛び込んだ結果、元の駅のプラットフォームに戻ってしまいます。

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この場面、非常にゲームっぽいなあって思ったんですよね。

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こんな感じで(笑)

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この当時、道重卒業、スマ新メンバー、研修生新グループに始まり、近年稀に見る変化の多い期間となったハローの様々な出来事にファンの目が奪われる中、おそらく沢山な物事を学習していたはずです。

 

そんな中、先輩メンバーがヒントを与えてくれます。

 

 

「だから君が……」

舞台は再び列車の車内。ここでちょっと雰囲気の違いを感じませんか?

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皆が一様にカメラ目線で、若干神妙な面持ち。

さっき、一見純粋に楽しんでいるように見られた先輩たちでしたが、実は自分が「どう見られているか」を意識して、好きなもの=自分の個性として伝えようと努力している。それは、まるで「こういう風に見せるのよ」とお手本を示しているような、そんな目線が投げかけられます。

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今が大変なのは仕方ない、でも大丈夫、わたしたちだって最初はついていくので精一杯だったから、一緒に走りましょう……そんな言葉を心の中で投げかけているような、物言いたげな表情の先輩たち。

この時、乗り越えるためのヒントが歌詞の中に隠れていました。

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だから君が

That's why you should have more confidence

 

「何度でもやり直せばいい」と諭した後、「そうすれば信じられるようになるよ」と励ましてあげているんですよね。

モーニング娘。に加入したその日から、在籍し続ける限り常に問われるのが「個性」です。「いろんないろんな奴がいる」「いろんないろんな道がある」の歌詞に合わせて得意技や自分らしい姿を見せる9期~11期の面々ですが、彼女たちもこれまで何度も「自分探し」を繰り返してきました。そうしてやがて自分らしい仕草を見せられるようになったのだと訴えかけていたのです。

 

これを機に、この先は13人が一丸となります。

 

 

4人と13人の挑戦

加入当時、レッスンについて行くのに苦労した9期。

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同じく、10期。

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その時どきのハロプロ出演番組の性格により映像の多い少ないはまちまちですが、何も苦労せずに本番を迎えたメンバーは過去に一人も居ません。12期にもこのような真剣な取り組みがあったことは想像に難くないところです。

 

また、この春は体制を大きく変えて迎える最初のツアーです。12期お披露目とともに、新生モーニング娘。自体のお披露目でもあります。

かつて新メンバーのあまりの不出来にリーダー当時の高橋愛が泣きながら怒ったエピソードは有名ですが、怒られていた9期が今や同じ立場にいます。

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新しい体制でもモーニング娘。としてのコンサートを成立させなければいけないという状況に立たされ、当時の先輩たちのツラさが今になって身に沁みて分かるのではないでしょうか。 

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これまで先輩を信じてついてきた彼女たちがいよいよ自分たちで新しいものを生み出さなければいけない。一度自信を持って出来るようになった10人のフォーメーションダンスを壊して新しいものを作らなければいけない。歌割りも増え、課題も与えられる。

12期4人だけでなく13人全員にとって大きな挑戦の半年でした。

 

 ・ ・ ・

 

生田が行き先を示す。

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かつて誰より泣き、誰より夢を語り、今も誰より壁にぶつかり続ける彼女だからこその自信。

皆が一斉に走る!

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走る!

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そして、自分たちを信じ、意を決して飛び込む。

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間奏部分、後ろにスローモーションで降りていく影が見えることから、地面に辿り着くまでの一瞬の出来事を表しています。

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背景に何もない「精神と時の部屋」のような短くて永い時間。

物語も大詰め、13人が気持ちを合わせてフォーメーションダンスを作り上げる精神世界、無音から徐々に音量が上がっていくのに合わせ、0から1を構築していく新生モーニング娘。たちが表現されます。周りから見たら飛び降りる一瞬でしかないけれど、実際この時間がどれほど長く感じられたのか、それは経験した本人たちにしか分かりません。

集中力を研ぎ澄ます彼女たちに見入り、息が止まる思いでいると、ブラウス姿の後輩たちがブレザー姿の先輩に混じって継ぎ目無いフォーメーションを見せていきます。

 

そうして、運命の舞台は森の中へ。

 

 

新生モーニング娘。の夜明け

リーダーが場面のスイッチを入れる。

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その瞬間……。

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ミッション・コンプリート! 薄暗い夜明けから一気に満開の桜吹雪に変わりました。

 

松任谷由実の作品に『DAWN PURPLE』という曲があります。単語をそのまま訳すと「夜明けの紫」。ユーミンは、『紫という色は人間が最初に見る色』だという話にインスピレーションを受けて曲を書いたといいます。胎児が産まれる時に最初に見る色であり、暗闇から太陽が昇るまでの夜明けの淡い空の様子を表す色でもあります。

この映像の紫掛かった空の色を見て、わたしはそれを思い出しました。

彼女たちは新たに生を受けた者の喜びに包まれたのです。産みの苦しみに耐えて晴れがましい姿となった彼女たちを覆うこの物凄い量の桜吹雪は、まるでコンサート会場が興奮で溢れかえるように、新しいものを創り出す空間の濃密さに満ちています。

12期4人を励ますところから始まり、やがて13人全員で自らを鼓舞するに至る大団円。何かを始めるに最良の季節、正にイマココカラ始まるモーニング娘。の状況にピタリとハマる映像となりました。

 

そして迎えるラストショット。映像は満開だったけれど、本当に12期4人の準備は整っていたか。答えはこの顔に書いてありました。

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モーニング娘。のプライド

 

12期の顔には、もはや反対方向に飛び降りてしまった時のような動揺はありません。モーニング娘。'15は準備完了!

……というこの映像が、彼女たちのスタートダッシュを強く後押しをしてくれそうな気がしています。

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このラストショットを見て、「いかにもモーニング娘。っぽいなぁ~」と思いました。それはキメた姿に現れる彼女たちの自信とプライドです。これまでも、いつだってモーニング娘。はそうでした。

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暗転した会場に流れるオープニングBGMや演出の映像が明け、スポットライトが当たった時の堂々とした立ち姿。

普段はおバカな少女たちが、憧れだけでポンっと入ってきたはずの彼女たちが、別世界の尊い存在へ切り替わる瞬間です。その光景が目に入るやいなや、一気に観客のテンションにスイッチが入ります。コレだ!と思える娘。の姿がそこにあるからに他なりません。

一方で、スポットが当たる側の彼女たちからすれば視界にあるのは真っ暗闇にペンライトの光のみ。気持ちの準備がなければ、距離感は狂い、興奮に揺れ、不安で縮こまり、決めポーズをキープすることは難しいでしょう。

そこを微動だにせず立っていられるのは、モーニング娘。であることの自信とプライドがあればこそだと思うんです。

 

実際、常に準備も自信も100%の状態というわけにはいかないでしょう。不安も常にある。けれど、それでもネガティブな様子は決して表に出さない。押しつぶされそうな気持ちをこらえて、時には最後のMCで感極まることもあるけれど、トレーニングを積んで作ったものを披露する舞台では決して甘えを見せない。堂々した顔つきで、自分たちの魅力を表現すべくポーズを決める。

それが「モーニング娘。」という肩書をつけて舞台に出るメンバーとしてのプライドであり、このグループの流儀なのです。

 

ゲームの中のバーチャルな世界のようなMVでしたが、このラストショットは急に現実世界のモーニング娘。とリンクしました。これには否応なくこれからに期待させる効果がありました。

きっと、これから会場に向かう観客は、「新体制のコンサートは大丈夫だろうか」という消極的な見方ではなく、「あの立ち姿が観られるのは楽しみだ」と大いなる期待を込めて臨むことでしょう。これって大きいです。間違い探しでなく、良い所を見つけてくれるはずですから。

コンサートでグッと掴むためのその導入として、この映像が与える信頼は非常に大きな意味を持つと思います。

 



映像に盛り込まれた楽曲のテーマ

 

ふと立ち止まり、ハッピーエンドで終わる映像なのにどこか寂しさを覚えている自分に気づき、ちょっと不思議な気持ちでいました。前向きに取り組む彼女たちを見ているのに、なぜ……。

 

それは、やはり渋江監督が映像を構成する上できちんと楽曲のテーマを取り込んだからでしょう。

 

 

映像監督の理解

リリースに先がけ、渋江監督をゲストに呼んでのトークイベントが行われ、このミュージックビデオについてかなり詳細に解説がなされました。

とざまさん(@tozamasan)の詳細なレポツイートをのぞかせていただいて、色々と腑に落ちる思いでした。

オーディション時の映像も編集に2週間カンヅメだったと言っていましたが、本作も非常に真摯に取り組まれたことが分かります。

 

意気込みと準備。

真っ先に考えた、楽曲のテーマ=「12期の応援歌」という解釈。

そして、楽曲の背景=『いろは歌』。これが印象づけを行う最大の要素になります。

 

『いろは歌』は、『涅槃経』の「盛者必衰」の考え方をあらわした歌です。すなわち、誰しも(何事も)必ず終わりが来るという、「常ならぬもの」がバックグラウンドにあるのです。

こちらの方の記事で非常に詳しく考察されています。

仏教観念がどこまで作詞に取り込まれているか定かではありませんが、渋江監督なりの解釈として「無常」の考え方を背景の軸に据え、一見脈絡の無さそうなアイテムもそれぞれ意図をもって採用しています。

例えば、制服も森の草木も、やがて無くなる儚いものの象徴として用いられたといいます。自然界に生きるものすべてが無常であるというバックグラウンドを映像に反映しているのです。

その発想って、愛の尊さを語ったつんく♂Pと親和性があると思うんですよ。

What is love?
めぐる365 春夏秋冬24/7
誰もが皆いつかはTO DA HEAVEN
人間に動物 植物 鉱物すべてバランス
偉い奴なんていない それが愛だ だから愛だ

 

『What's Up? 愛はどうなのよ〜』 モーニング娘。(2012)

愛の尊さを説明する上で、世に実在する全てのものは相対的な関係であるし、そのものに限りがあるという考え方を前提に置いているんです。そう考えると、渋江監督の推察はかなり楽曲に踏み込んだものになっていると思います。

 

言葉遊びが好きなつんく♂Pのことなので、以前からストックはしていたように思いますが、もしそうだとしたら、このタイミングで「無常」や「悟り」を語る『いろは歌』を引用したことは彼の半生を考えると非常に強い意図を感じます。

 

泣いたっていいじゃないか 

もう一つ、実は最も気になっていたサビの部分。

「青春小僧が今日も泣いている」

「これが最後って今日も泣いている」

これについては、つんく♂Pのライナーノートにて解説がありました。

「結局最後は自分なんだ」という事がテーマです。

いろいろあるのが人生、泣きも笑いも出会いも別れも。

泣いたっていいじゃないか

そして、泣くのはこれが最後!って毎回思っていいじゃないか

と。

誰かがそばに居てくれるという安堵感。

これって普遍なんですが、でも、やはり尊い感覚です。

 

モーニング娘。’15 4/15 Sg 「青春小僧が泣いている」「夕暮れは雨上がり」ライナーノー|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ

 

なるほど。タイトルに「青春」という言葉を持ってきたことも含め、場面が浮かんできそうな説明です。

ハローの世界にいると、とかく「プロ意識」という言葉に意識を持っていかれますが、今の若い彼女たちの感性を燃やすことでにじみ出てくる素の表情は、それはまた若いチームだからこその個性であり武器になります。もし彼女たちが実感する思いをステージで表現できたら、きっと物凄い説得力を持って観客に伝えられるはずです。

そういった若さゆえの力を、つんく♂Pは「青春」という言葉で表現しているような気がします。

一回きりの青春
Oh Yeah! Oh Yeah! Oh Yeah!
だからいいじゃん

 

モーニング娘。『ダディドゥデドダディ!』(1999) *2

行動することに意味がある時期があります。

プロだから「結果」が求められる。でも、そうであっても、一回きりの青春の真っ最中にある今の彼女たちには、もし正解に至らなくても、闇雲に取り組む「過程」を経て、そこから何かを知ってほしい。そんな親心が込められているように思うのです。

最近のインタビューで分かってきたことですが、いよいよ新体制の春ツアーが始まるという初日、出番直前の「しょい!」の掛け声を終えてもメンバーが泣いていたといいます。いよいよ待ったなしとなった極限のプレッシャーに震える中、彼女たちは「第二の父」のいたわりに甘えさせてもらったのかもしれません。

ここを最後に、舞台で泣かないように、歌うことや踊ることに怖がらないように。どんな舞台も、常ならぬ一回きりのものだから。

 

 

桜の季節の娘。たち 

漠然と感じた寂しさ、もっと言えば、映像から離れた現実の世界でモーニング娘。がとことん活動に打ち込む理由も、つまるところ、この曲で描かれた世界観=「常ならぬ」という部分に、どうやらあるようです。

 

わたしにとって、そのスイッチは桜だったんですよね。

毎年桜の季節になると、とある娘。のテキストを思い出すんですが、その中で圭ちゃんが桜を愛でながらこんなことを言うんです。

「きっと毎年違う花が咲くから綺麗なのよね」

 

『さくら』 - モー神。通信(2003.10.22)

これが書かれたのは、圭ちゃんが卒業した後のことでした。

つまり、圭ちゃんはこの一言で2つの事を言っているんですよね。一つは、来年桜を見る時に隣に圭ちゃんは居ないということ。もう一つは、桜と同様にモーニング娘。毎年違う姿に生まれ変わるからこそ美しいということ。

さくら組おとめ組に分かれての活動が本格始動する直前で、この先のことがどんどん見えなくなって来た頃、そんなことを説く様子は、花見の席が幸せそうであるからこそ尚更寂しく感じたんです。

ですので、今に置き換えて具体的なことを言ってしまうと、この春13人は渋江監督のMVで満開の桜で迎えられたけれど、来年の春モーニング娘。'16が今と同じ13人である確証はどこにもない、、、よくわからない寂しさってそういうことなのかなあと思えてきました。

始まりの時にこんなこと考えるのもどうかとは思うんですけどね。どうあれ、ここしかないとばかりに力を尽くす彼女たちの姿は、やはり尊いものに映るんです。

 

ここ最近、一般に桜を愛する風潮が強くなりましたが、桜が好きだという人には少なからずそこにある哀愁に心惹かれていて、去年と違う今を再確認してリセットしたりしています。

--お花見に来た公園でさゆロスを癒やす10期

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お泊まり会!石田亜佑美|モーニング娘。‘15 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba

 

「少女」で居られる数年間、「モーニング娘。」で居られる数年間、その期間の中で出会う人、経験する出来事、すべてはそれが最初で最後かもしれない。でも彼女たち自身そんなこと考えていたら一つ一つが不安で仕方ない。

だからこそ、今日だけは泣いて、その代わりに明日は大いに笑って、自分と誰かのために懸命に活動するのかなあと思うのです。

 

彼女たちは、今の一瞬一瞬に集中することの大切さを知っているのですよね。毎年別れを経験してきたからこそ。

 

 

 

 

いえ、暗い話をするつもりではありません。

いつでも「今」が一番面白いモーニング娘。は、常に「今」の姿を観なければいけないんだとあらためて考えた次第。MVを噛み砕いて観たことであらためて考えさせられ、不可思議だったこの曲が好きになりました。

 

それと、世の全ては常ならぬものだという話をしましたが、彼女たちとファンとが、一つだけいつまでも続くと信じるものがあります。

 

【Morning】駅は、ずっと在り続けるんですよ、きっと。

常ならぬ者の集まりであるモーニング娘。ですが、自然の摂理にならって、陽はまた昇るという約束を果たしてきてくれたのもまたモーニング娘。です。

昨年の『TIKI BUN』(2014.10.15)からちょうど半年経ってのリリース、新生モーニング娘。'15は新しい夜明けの時を迎えました。この曲が新しいモーニング娘。の第一歩です。再び全国に「はじめまして」を伝える旅を始め、早速タイムラインに清々しい風が流れ始めました。

 

きっと素晴らしいドラマが待っているに違いありません。来年か、もっと先か、何かを成し遂げた時に、無事スタートを切れた今日の日に感謝できる未来がやってきたらいいなと思います。

 

 

あれこれと考えてみると、無常観を切り取った渋江監督のMVは、楽曲のプロモーション映像ではなく、モーニング娘。というグループを端的に表現した映像になっているのかもしれません。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

「YO 誰ぞ」

「We are Morning Musume。'15 !!!」 

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*1:渋江監督が自身のツイートで、だーいし感を出すために思案した結果、つり革で工藤と背比べする結果に至ったことを解説。 https://twitter.com/SHIBUE_SHUHEI/status/586761206553153536 

*2:奇しくも、去年のハワイツアーで譜久村聖が歌ったのがこの曲。まるで1回きりの10人の旅を表しているかの様。 ダディドゥデドダディ! 譜久村聖 - YouTube