『ハロ!ステ#65』 道重さゆみとモーニング娘。'14の恩返し~母の日を前に~
4月29日、モーニング娘。'14のリーダー道重さゆみさんが、今年の秋のツアーで卒業することを発表しました。
先日 関連記事を上げられたアライブモーニングさんのおっしゃる通り、このタイミングでの発表がおそらく絶好だと思います。
絶好なのにどうして驚きだったかと言えば、周りが「紅白に帰ってきた道重さゆみ」を待望するあまり、皆の頭の中でそれを基準としたスケジュールを引いてしまっていたからに他なりません。その打算が無ければ、おそらくこの発表はもっと「来るべきものが来た」と捉えられていたはず。
小さくまとまりかけていた
そもそも、モーニング娘。本来のダイナミズムを失いかねない状態にありました。
先々週の『ミュージックステーション』出演の日、サッカーでも観る気分でビール片手に早めに帰宅して、リリースの度に観られるのは嬉しいことだと感じていたのですが、反面、番組のトップバッターをソツなくこなしてお役目を終えると、ふと、半年前の大騒ぎがあっという間に普通になってる自分に気付いて「慣れ」の怖さを感じてしまいました。
※参考: もっとも、半年前の『Mステ』が特別だったということもあります。当時の出演の意味合いと道重さんと娘。の評価について、ご参考まで。 『ミュージックステーション』 今こそ知って欲しいマツコが語る「モー娘。の凄いところ」の真意 - テレ娘。
過去のモーニング娘。でも、今よりずっと知名度は高いの記憶が風化されている期間は結構あります。振り返ればそういう時期には下り坂が待っていました。直近の命運を占うのは、名前が認知されているということではなく、「見逃せない状態にあること」 なのですよね。
極端な話をすれば、「今、解散なんてことは絶対あり得ない」と100%言い切れる時代はそんなに多くはなく、だから、つんく♂Pが出てくるとみんなの血の気が引く。それが無い今がむしろ異常で、そんな経験から歴代モーニング娘。は常にシビアな注文を引き受け、日々危機感を背負っていたわけで、その点で長きに渡り常に研鑽を積んできた歴史の凄みがあります。
ハロプロ元禄時代
今の『ハロプロ元禄』とも言えるこの一年間、スマイレージの武道館まで含めると、真野恵里菜卒業以降は史上類を見ない「上向きしかない」という状況にありました。
- モーニング娘。 5作連続1位、その他もろもろ快進撃
- Berryz工房 武道館公演成功
- ℃-ute パリ公演・武道館公演成功
- スマイレージ 武道館公演決定
- Juice=Juice メジャーデビュー
- 卒業は田中れいなのみ(新しい目標への前向きな移行) *1
- 加入はゼロ(=グループ内の変動なし)
つんく♂Pが度々口にする言葉の一つに 「鮮度」 があります。常に目新しいグループであることを良しとしているため、そんな彼のプロデュースに慣れた変化を求めるファンは、逆に「一度出来たことは次回出来て当たり前」が当然となり、「前のツアーと同じ曲目が続くと刺激が足りない」と感じてしまう、非常に舌の肥えた客が集まっています。
何よりも、五輪壮行会やCMや歌番組の出演はとても素晴らしいことですが、あれだけ頻繁にCMで顔が映っても「道重以外知らない」現状から抜け出せていない現実があります。
5作連続1位の間、本人たちはずっと「自分たちはまだまだ」と言い続け、まだ「進化」の途上にあるはずの彼女たちと取り巻く環境が、実は山の中腹で「安定」してしまいそうになっているのではないか。
「ダンスが凄いモー娘。」の次の一手はあるのか。『Mステ』初出演で力を出し切り感無量の涙を流したような、上を目指した挑戦は出来るのか。6月のミュージカルを挟むと上向きの曲線はかなりゆるやかになってしまう…。
そんなことを考えた4日後に道重卒業のニュースが飛び込んできたわけです。
このタイミングだったか。。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 4月 29
おそらく、変化なく幸せが続けば段々と熱は冷め、それが長く続くほど次の変化が痛みとなります。その「次の変化」にあたるものが今回の道重さん卒業であったわけです。とても大きな変化ですが、序列を考れば妥当であり、ハロプロが存続する限り受け入れなければいけない過程なのですよね。
恩返し
先日の『ハロ!ステ#65』(44分10秒~)にて、アンコールMCで卒業を発表する様子が流れました。実に落ち着いた話しぶりと整理された内容で、熟慮の末の発表であったことが見て取れました。
その中で、ひときわ語気を放った一言があります。
「重要なことは……ここからが本当の【恩返し】だと思っています!」
「超でっかく超かっこいいモーニング娘。に仕上げてから、卒業して次の世代にバトンタッチしたいと思っています」
リーダー就任後、卒業のタイミングを聞かれる度、「恩返しができたら卒業」と言ってきました。この言葉が彼女の長いモーニング娘。人生の最後のフェーズの大きなキーワードになります。
道重さゆみの献身
11年間を思い返すと、道重さゆみという人が手に入れたのは、やるべきことを「実行する力」だったのではないでしょうか。
加入したばかりの頃、口ばっかりで勘違いしている少女でした。「練習やってきたの?」と飯田リーダーに訊かれて「やってません」と答えた子供です。バラエティの企画では何の計算も無く口で大きなことを言って、実際にやってみると何もできずに笑ってやり過ごす。周りはそれを面白がっていました。
そうして、本人の考えの9割が「勘違い」で残りの1割で「おいしい」と理解して、徐々にキャラが固まっていきます。勘違いが分かるにつれ、言って良いか怖いような発言を少しずつ挟むようになり *2 、やがて「おいしい」が「勘違い」を上回った瞬間、何も出来ない「口ばっかり」 から 必ずやる「有言実行」 に180度変わったような気がするんですよね。明らかな間違い解答や失礼を承知の要らぬ一言など、隙を見つけては挟み、とにかく自分カワイイ押していく。
当時、娘。の主戦場がステージにシフトする変化の中で、自分の居場所はここしかないという覚悟がありました。勘違いキャラを確立して実績を残す。確実に実行することが彼女の一番のプロ意識だったわけです。
そんなプロ意識をまとった彼女がリーダーとなり、やるべきことは「恩返し」だと考えた。元々の性格面だけを考えれば自意識過剰な彼女が譲るようになったことは不思議ですが、彼女の経歴を見ると、新たな自分を見出すきっかけを与えてくれた感謝から、献身的に務めているのだと分かります。
「今週のお姉ちゃん」
自身のラジオ『今夜もうさちゃんピース』の栄えある第1回放送で、スタッフに自分を知ってもらうための質問に答えてこんなことを言っています。
道重「続いて3つ目。『もしもモーニング娘。に入っていなかったら、何をしてたと思いますか?』。これはですね、さゆみ、昔からの夢なんですけど、ウェイトレスさんになりたいです。あのぉ、なんか可愛いフリフリな衣装を着て……着させてもらって、喫茶店とかで『いらっしゃいませ~』って言って、なんか可愛いコーヒーカップとか持って、なんか失敗しないようにね、ドキドキしながら、今の状況に似てるんですけど、そういうのがすごい夢です」
/『今夜もうさちゃんピース』(2006.10.05放送)
雰囲気的に店員さんをやってみたい感じ、彼女のお姉ちゃんに似てる気がします。お姉ちゃんとの親和性は長きに渡って語られ、番組中の人気企画でもありますが、その人気の理由は、双子のように気が合う姉が「もう一人の自分」だからだと思うんですよね。
もしもモーニング娘。になってなかったら、ウェイトレスをやっていたかもしれないが、途中でめげてやめてしまい、姉と二人で笑い話にしてたのではなかろうか。定職につかない姉のことに「○○すればいいのに」と語る時、「もしも自分が…」という表裏一体の思いが見え隠れしているような気がします。
でも、子供の内に仕事への心構えを叩きこまれ、まったく違う人生を辿ることになります。お仕事に必要なことも集団での人付き合いも、「人生で大切なものはすべてモーニング娘。で学んだ」わけで、学びの場である以上に人間形成の土台となる親のような存在なのですよね。
だとしたら、大人になった今、心を尽くさないなんて有り得ないことなのです。
本当の恩返しが始まる
そんな実行する力を得た彼女の「本当の恩返し」、これだけ溜めて言う感じは映画のワンシーンのようでした。
三谷幸喜作品や『踊る大捜査線』が解決へ向かうような転換点の始まりを思わせます。熱くて笑って泣けるエンタメ映画。*3
動画で表情や抑揚を見たら、かつての嫉妬深く狡猾で自分大好きな本来の道重さゆみという人を思い出しました(笑)。だからもう、何というかあざといほどに分かりやすく「一本取られた!」と驚かされるような仕掛けをいくつも考えているのではないでしょうか。
思えば、バラエティ担当の卒業が突然でないのは『うたばん』全盛時代の保田圭ちゃんの頃までさかのぼります。当時とは娘。の環境は違うし、圭ちゃんとはタイプも違うけれど、時にアツく、時に面白いことを言って、何よりファンに愛されたキャラクターです。
リーダーとしてだけでなく、過去の彼女のキャラもひっくるめた「モーニング娘。の道重さゆみ」の集大成にワクワクします。
もう一つの恩返し
卒業までの半年間をウォッチするにあたり大切なのは、これから始まるストーリーが道重さゆみだけの物語ではないということです。
常々「頼りっ切り」だと話す後輩たち、その思いがあるのなら、やらなければいけないことがあります。道重リーダーへの【恩返し】です。
先日、ニコ生番組に出演した時にこんな場面がありました。
飯窪「はい、問題です。コンサートのケータリングであるものがあると道重さんがスペシャルご飯を作ってくれます。それは何でしょうか?」
(答えは「コーンスープ」。ブログ等で話題になった話なので4択の選択肢が出る前からチャット上にユーザー同士でヒントを出し合ってましたね。結果、ユーザーの79%が正解)
道重「あの、下にご飯を入れて、コーンスープを少しかけた上に粉チーズをドバドバドバっと入れて、最後にブラックペッパーを振りかけるんですよ」
天の声「いやぁ、美味しそうやん」
道重「めっちゃ美味しいです!」
譜久村「美味しいです~」
道重「何かリゾットみたいな感じで、オススメです」
飯窪「クリーミーで」
鞘師「毎回、ケータリングにコーンスープが出ると『あっ!』ってなりますね」
天の声「『今日も食える』っていう感じ?」
鞘師「はい」
道重「みんな、すごい『道重さん、コーンスープありますよ』って言ってくれるのが、すごい可愛くて嬉しいです」
メンバー「(笑)」
天の声「さすが、リーダーがお母さんみたいになってきてるもんね、そうなるとねー」
道重「(ちょっと照れながら)子供たち~」
メンバー「わーーー!!!」
/『【モーニング娘。'14】がニコニコにやってきた 初の全員集合ニコ生特番 by 「うたパス」Now On Air』(2014.03.12配信)
母なるリーダーから不意に声をかけられて歓声をあげる子供たち。
加入当初、6期8期あたりは姉のような存在になるかと思いきや、やはり仕事に専念する成人と学校に通いながら活動する中高生、やはり大人と子供のまま平行線でここまで来てしまったなあと思います。
道重さんが母なるモーニング娘。に恩返しするのなら、後輩メンバーも母のように慕うリーダーに恩返しをしたいと考えているに違いないと思うのですよね。それは、もちろん、プレゼントとか寄せ書きとかいった話ではありません(それはそれでこれから沢山企画が待ってると思いますが)。
では、何をするか。
鞘師里保(15)は「卒業という事実に涙が出た。これからどうなっていくか想像もできない」と本音をポロリ。それでも「道重さんが『後輩たちが頼もしくなった』と言ってくれた。その言葉を信じて、道重さんと一緒にいる半年の間にたくさん学んで力にしたい」と前を向いた。 |
「頼もしくなった」という言葉をかけられてから5ヶ月あまり。しかし未だに「まだまだ」と謙遜し、その言葉をむねに「これから」頑張るというのが現状です。であれば、その言葉を現実のものにすること、つまり、「道重さんの言葉を嘘にさせない」ことを目標にすればいいのではないでしょうか。
「超かっこいいモーニング娘。に仕上げる」という宣言を嘘にしないよう「超かっこいいモーニング娘。になる」。もちろん実際になったかどうかは周りの判断ですが、大切なのは「超かっこいい」と胸を張って言える自信と自覚を持った9人になることです。
今後、道重さんは弁舌爽やかに後輩たちを売り込む言葉をじゃんじゃん発信していくと思います。バラエティ的に大袈裟な表現で「この子は○○が超上手い」「この子の○○には勝てない」なんていうパスがあるかもしれません。
これはほめているのではなくプロの売り文句です。ほめられる側は謙遜ではなく言葉を一つ一つ受け入れて現実のものに変えていく堂々とした姿が見たいですね。
'14が後世に名を残す代になるかどうかは、ここにかかっているといっても過言ではありません。
覚悟も計画もなされていた
※この記事の準備の途中、id:chiffon_cafe さんの記事が上がってきました。
この方のブログからはしばしば気づきをもらうのですが、組織社会学の観点と女性目線でグループ活動する娘。の心理を語るpostは興味深いです。今回は卒業にまつわる「なぜ?」を非常に多方面から考察されています。
しかしながら今回、気になったポイントが似通っておりまして、これ以降の内容に重複する点が多々出てきます。あしからずご容赦いただきたい(遅筆ですが、コピペではなく自分で準備してたんですよ……)。
周到な移行計画
MCの中でも言っていたように、2年前から卒業のタイミングを探っていたことを明かしています。2011年以降に卒業した他のメンバーと同様、長い目でプランを組んでいます。
先日、中澤姐さんが興味深いことを言っていました。
さっそく福岡で楽しそうにやってるなあと思って見てたら、中澤「リーダーになる=次の卒業は意識しなきゃいけない」と深い一言。 /道重さゆみ卒業に中澤裕子の反応は・・百道浜 05/02福岡 - YouTube http://t.co/Wjni7MDNFQ
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 5月 2
2010年の3名同時卒業の際、残った5名は、リーダーならずとも年齢的に大まかな卒業時期をイメージし、引き継ぎを自分の重要な役割だと理解していたと思います。
15周年の50枚目に向けた一年半、ハロプロ全体が一枚岩となったかのように、動画を起点として常に飽きさせない仕掛けを続けました。現在の『ハロプロ元禄』状態もここでの頑張りが効いているように思います。
そうして『One・Two・Three』から始まる道重リーダー体制も地に足をつけた上り調子。5名で預かった大切なバトンを確実に渡すため、細心の注意で臨んできたこの3年間。移行計画は極めて順調だったと本当に思います。
それが証拠に、タイムラインの声は卒業する道重さん以上に、卒業後の議論で持ちきり。
思ったんだけど、卒業後のことを色々と考えるくらいだったら、秋ツアーのツアータイトルや何を歌って欲しいと言う議論した方が意味があるんじゃない? #morningmusume14
— 地下水の彼方 ’14 (@shibatanokotoba) 2014, 5月 1
(RT)正論です。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 5月 1
「卒業ビジネス」と揶揄された昔、残される後輩メンバーに関心が向く状況を作るのがどれだけ難しかったことか……。それが、こんな苦言が聞かれるほど、不安も期待も入り交じった未来への思いが渦巻いているんですよね。
きちんと後輩を育ててからバトンタッチするという本来あるべき引き継ぎが健全に行われていることを物語っています。
そんな丁寧に土台を作る日々の締めくくりが迫っています。道重さんの最後のお役目、それは新しいモーニング娘。の始まりの号砲を鳴らすこと。それはもう、並々ならぬ準備をしているに違いありません。
始まっていた最終フェーズ
道重さんは、メンバーへのサプライズを嫌い前日に伝えたそうですが、実は、決心するきっかけが昨年秋の武道館だったことから すでに始まっている「道重卒業」のタスクに無意識の内に参画していたように思われます。
それが、1月に配信された動画 『勝負の年だぞ。ムービー』 です。
ポスターにもなった、「引っぱれ。サヤシ。」「落ちつけ。サトウ。」という冗談とも本気ともつかないキャッチフレーズとともに意気込みをまとめたもの。意気込みのメンバーの声が棒読みだったので前年の「今のモーニング娘。」の2014年版なのかなあと思っていましたが、実は後からその意図が分かる仕掛けだったのだと思って見ると実に面白いです。
肝心なのは前後のキャプションでした。ここで決意しているのが誰なのかということ。
キャプションにこめた強い思い
動画の冒頭、コンサート会場の引きの画からゆっくりとステージにズームされる中、キャプションが現れます。その文字の色は ピンク です。
声が入らないのではじめは気付かなかったのですが、この文字はきっと道重さんをあらわしているんですよね。文字に込められた彼女の積年の思い。キャプションはこんなことを言っています。
比べることに意味はない。
あの頃と、
比べることに意味はない。
自分たちが納得できるかどうか。
もっとできた。まだやれた。
いつかそんな風に思うのは、
嫌なんだ。
彼女が2003年に加入して、娘。生活で感じたこと。多くはきっと「悔しさ」です。もし彼女が振り返って「楽しいことばかりでしたよ」と言ったら、残念ながら強がりに聞こえる気がします。
テレビタレント・道重さゆみとして世間の風にさらされ、「まだ活動しているの?」と思われていたことを知っています。そう訊かれる悔しさも知っています。
自分の力ではどうしようもないことも多かったけれど、今のプロモーションと比べると、リリース日に何の活動もなく、ただCDだけがレコード店の小さな棚で流通していた頃、自分にも何かできたのではないか……そんな悔やみ切れない思いはきっとあるはず。
そして、リーダーとなり開き直って一から取り組んだ時の清々しさ。。
達成した時には、少しだけ気持ちを吐露しています。「もっとできた。まだやれた。」と思っていた仲間たちの忸怩たる思いを代弁したに違いありません。
「自信はあったんですよ!!」 これまで抑えていた気持ちをほんの少しだけ出した、魂の叫びにしびれた。。 #morningmusume14 pic.twitter.com/Px3hkrC0mk
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 2月 3
そう考えると、この動画は道重リーダーの「手紙」になっているような気がします。
昨年わたしは、アンジェラ・アキさんの『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』をモチーフに、道重リーダーのメッセージにぜひ耳を傾けて欲しいという内容のpostをしました。
でも、そんな鞘師が、もし気付いてなかったら知って欲しい。まるで その手紙の送り主のように あたたかく見守りそして支えてくれるリーダーがすぐ近くにいることを。 もちろん「拝啓 あなたのインタビュー読みました」とは言わないだろうし、抱えた悩みが一言で簡単に解決するようなことも多分無い。けれど、かつて道重さゆみも同じ15歳のモーニング娘。だった。そして今の15歳のモーニング娘。に尊敬される人物になった。これは紛れもない事実ですよね。 |
この動画も、もちろん何か直接声をかけるわけではないけれど、15歳や17歳の自分と同じテンションで今15歳とか17歳のメンバーが活動をしたらきっと同じ後悔を繰り返す。それはいけない。そんな彼女自身の積年の思いを間接的に、正にタイムカプセルから掘り起こしてメンバーに託すべく文章として表した心の叫びなのではないかと。。
決意に込められたもの
続いて、各メンバーのメッセージが流れます。サプライズではないですが、本人たちの知らぬ間に道重リーダー卒業に向けた決意を述べているようにも取れる編集になっています。
上述の通り、キャッチコピーばかりが目立って、決意文も目新しさに欠けていたように感じましたが、それは期限と目標が不明確だったからだと思うんですよね。
卒業が決まった途端、言葉に血が巡っていくように意味を持ち始めます。以下は発言からの抜粋。
- 小田さくら 「生意気だけど任せて欲しい」
- 工藤遥 「追いぬくよ先輩」
- 佐藤優樹 「どうしたらいいんですか?道重さん」
- 石田亜佑美 「ダンスが一番上手い石田亜佑美」
- 飯窪春菜 「サブリーダーの役割、なんて難しいことは考えないようにする」
- 鈴木香音 「楽しませること」
- 鞘師里保 「私はもう振り向かない」
- 生田衣梨奈 「前提はくじけないことだ」
- 譜久村聖 「きっと私の本気はまだ私も知らないから」
- 道重さゆみ 「教えてあげられることは全部教える」「もっといい景色を見せてあげたい」*4
レベル感はまちまちです。何をするか決めた者、自分を見つけたい者。疑問形のまーちゃんに関しては、甘えた子ですよ…というプロフィール紹介かと思っていたのですが、まもなく道重さんがいなくなる現実を前に自問自答しているのですよね。こんな感じに読み替えるといいかもしれません。
- 小田さくら → エース組の一角を完全確保する
- 工藤遥 → 先輩よりも何らか秀でた存在になる
- 佐藤優樹 → 一人で考えられる自分になる
- 石田亜佑美 → 娘。のダンスの顔になる
- 飯窪春菜 → 一人のメンバーとしての個性を見つける
- 鈴木香音 → 今のスタイルを貫き、伸ばす
- 鞘師里保 → エースとして進むのみ
- 生田衣梨奈 → 人より前に出ることを止めない
- 譜久村聖 → 一人のメンバーとしての強みを見つける
サブリーダーの二人は肩書に追われた一年だったような気がしますが、その分、将来のビジョンは見えているはずなので、どんな存在であるべきかは理解していると思います。
これは自身を発奮させる「宣言」ですが、卒業を視野に入れて作られた動画だと考えて読み替えると、後輩メンバーは知らぬ内に卒業までに果たすべき「約束」をしているように見えてきます。冒頭の道重さんの心の叫びへのアンサーです。
前項で言った「道重さんの言葉を嘘にさせない」のと同時に「約束を守ること」を「超かっこいいモーニング娘。」の条件として、この半年間、自身の達成目標にしてみてはどうでしょうか。
'14の青写真
動画は各メンバーの決意のあと、再びキャプションのパートに戻ってきます。文字色はやはりピンク。
誰の代わりも居やしない。
出し切る。走り切る。
私たちが、次の全盛期になるために。
冒頭は道重さんの記憶をひもとき「時空を超え」て投げかけられたメッセージでしたが、こちらは数名のメンバーが「宇宙を超え」るようにみんなで一つの意思を持って、道重さんのモノローグとして語られています。
この内容がピンクで示される意味。これが道重卒業の最も大きなテーマになっています。ここには、母なる存在となった道重さゆみの思いが込められているような気がしました。
もちろん母の気持ちは母にならないと分かりません。わたしは憶測でしかものを言えないですが、何となく伝わることがあって……ちょっと恥ずかしい話を。。
・ ・ ・
わたしの母は熱狂的な広島カープのファンです。小学校の一時期だけ広島で過ごした時をきっかけに、老後の今でもオンシーズンはスカパーで毎試合観戦しています。その影響でわたしも兄弟も広島を応援しています。でも、プロ野球が好きな方はご存知かと思いますが、カープはおそらく母が見ている期間の8割くらいは低迷しているチームなんですよね。
そんなカープが一時期だけ強かった時期があります。わたしが小学校の頃、その年の日本シリーズに進出して西武ライオンズと戦うこととなりました。埼玉に住んでいたので、乗り換えはかなり面倒だけれども2時間半くらいで観に行くことは出来る。でも、日本シリーズのようなプラチナチケット、球場窓口以外の入手経路が極端に少なかった当時、手に入れようがない…と諦めてたら、たまたま知り合いから譲ってもらえることになって、母も家族も大騒ぎになったんです。で、試合の前日にその方からペアチケットを受け取ると、母はわたしと弟に向かって 「明日優勝が決まるかもしれないから、ちゃんと見てきてね」 って言って、出掛ける支度をしたリュックに仕舞ったのです。
そう言われて、電車に滅多に乗らない田舎者だったわたしたちは途端に楽しみと行き帰りの心配で頭がいっぱいになります。当日もデーゲームのために早退という当時の常識では考えられない特別半ドンをもらって(母がだいぶ前から担任にかけあってくれていた)、校門まで迎えに来てくれた母に、弟と二人、ランドセルを預けてリュックを受け取って、学校から西武球場に直行しました。
ゲームは接戦でした。友達と後楽園球場の外野席でわいわい応援したことはあったんだけど、譲ってもらったその席はびっくりするくらいゲームがよく見える内野席で、楽しむというよりは真剣に見入る感じでした。優勝が決まるかもしれない緊張感で球場もざわざわしてて、ただやっぱりホームの西武ファンが圧倒的に多かったし、子供心に何となく雰囲気を感じ取って、弟も眉をひそめて腕組みなんかして観てました。延長までもつれた結果、最後は工藤公康にサヨナラヒットを打たれて負け。しょんぼりしてる弟に「負けちゃったけどいい試合だったよ」なんて言いながら、とぼとぼと帰りの電車に乗り込みました。
そうすると、途中の乗り換えの駅に母が迎えに来てくれていて、ようやくわたしたち二人はホッとして、弟は急に笑い始めて「日本シリーズ楽しかったー。あと、お兄ちゃんがやさしかったー」って報告し始めて、それを見て、「あら、いつもは仲悪いのにねぇ」って母が笑うので、恥ずかしくなったわたしは「そういうこと言うなよ」って、また仲悪い兄弟に戻って。そうして、ちょっとした「はじめてのおつかい」は兄弟にとって野球観戦以外にもとても良い経験になりました。
帰り道、せっかくだから外食して帰ろうということで、そこでわたしはようやく母に「観たかったでしょ?」って聴いたんです。そうしたら、「観たかったけど、二人が楽しかったならそれで十分…」と切り出し、自分が野球を好きになったきっかけは幼い頃に両親(わたしから見た祖父母)に連れて行ってもらった広島市民球場の景色が大好きで忘れられないからだということ。で、おかげで今でもカープが好きだということ。そして、その景色を二人にも見せてあげたかったんだということ。そんな思い出話をしてしてくれたんです。
こうして、わたしにとっても一生忘れられない記憶として引き継がれることになりました。
・ ・ ・
卒業の一報を聞いて、そういうことだったのか…と思ってつぶやいたこと。
道重リーダーの【恩返し】をずっとみんな考えてたけど、「(自分が)紅白に出る」ことじゃなくて「メンバーが紅白に出る道を作ってあげる」ことだったんだね。自分は出場しているから。。連れて行ってもらったから。。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 4月 29
母の気持ちは母にならないと分からないし、道重さゆみの本当の気持ちは道重さゆみ以外には分からない。だからわたしは憶測でしかものを言えません。
ですが、母のような存在となった道重さゆみが、お世話になったモーニング娘。と未来のモーニング娘。のことを物凄く真剣に考えたことは間違いないと思います。いつが良いのか、何が最良か、どうすれば最もモーニング娘。に還元できるか、恩返しとは何か。
その前提となった彼女の考え方。それは会社や組織の理屈抜きに、彼女にとってモーニング娘。という存在自体は一つの「個」であって、自分が居ても居なくても自分の体の一部である大事なグループであるということ。
だから、ピンクのキャプションは9人を指して「私たち」と言ってるんですよね。
武道館で頼もしいと感じた瞬間、道重さんの魂は 『I WISH』 の9人に預けられました。
それはすなわち道重さんのモーニング娘。としての最後の覚悟です。バラエティの世界で「一人立ち」する覚悟、「リーダー」としての覚悟、そして最後に「託す」覚悟を決めたのです。これまで大切につないできたバトンを最後まで預かった責任がある。それを渡すのは、きっと泣いて悲しんでいた後輩たちと同じくらい怖い。でも、覚悟とはそういうことなんですよね。
事務所と話し合って決めています。先延ばしにすることもおそらく可能でした。
だけど、然るべきタイミングだと判断したら、迷わずにやらなければいけない。はっきり言って絶好調な今が最もトップスピードで送り出せる。そのために、自分は年末を待たずに卒業して紅白出場も9人で構わない。いや、すでに彼女は『モー娘。紅白復活』の青写真として自分が託す「超かっこいいモーニング娘。」が次世代黄金期として鮮烈デビューを飾る場面を頭に描いているのですよね。それが娘。の最良だと信じて。
その判断をつんく♂Pは「美学」と評しました。
しかし、彼女曰く「『よし!私、今日もかわいいぞ!』というコメントがギャグ化する前に、 リアルにかわいいうちに卒業したいんです。」と。 そして「グループが盛り上がってきている『今』卒業したいんです。」という彼女なりの美学もありました。
/モーニング娘。’14 道重さゆみ 卒業に関して|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ |
卒業後について何も語らない彼女、おそらく今の段階で言えるのは、気持ちの面で一生モーニング娘。であるということだけだと思います。いつまでも、「道重さゆみ」であり「モーニング娘。の道重さゆみ」でもあり続けます。
だから、頼もしい9人が「超かっこいい」姿を披露することは、すなわち道重さゆみもその一部であり、かわいい自分を見て欲しいと願い続けた彼女の自意識過剰の究極の形……というのはこじつけかもしれませんが、彼女がモーニング娘。にこの先ずっと希望を託すのだとしたら、親友・亀井絵里が残した「モーニング娘。は永遠の愛の形」という言葉とどこか似通った発想である気がします。
大切なことは...
卒業時期の都合上、紅白との兼ね合いが話題になりましたが、大切なことは「紅白」という具体的なものではなく、紅白サイズの大舞台に 「自信を持って立ち向かえる新生モーニング娘。」 であり、ここが道重さんの最後のミッションのゴール地点になります。すでに、まるで最終試験のようなニューヨーク公演の知らせも入ってきました。
そうとなれば、実際に動いて汗をかいて頑張らなければいけないのは後輩たちということになりますね。道重さんの【恩返し】も後輩たちの【恩返し】も最終目標は一緒です。全ては愛するモーニング娘。のためにあります。そういった、時代の節目を担う重要な使命を課されることが決まっていた。だからこそ、モーニング娘。'14は 『勝負の年だぞ。』 と気合いを入れたのです。
リーダーとして、モーニング娘。として、使命を全うするため道重さんのラストスパートが始まりました。彼女のラストスパートは'14のラストスパートでもあります。まだ春の段階から「ラストスパート」なんておかしな話ですが、後悔しないためには突っ走るしかないんです。
「やり切る。走り切る。」 それが'14が年初に放った宣言ですから。
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そりゃ、、本人も紅白に出たかったと思います。でも、出るとしたら敬愛する高橋愛が率いるチームの一員として出たかったんじゃなかなあ……。
だけど、それは叶わなかった。だから、高橋愛と同じ気持ちで後輩に託す。愛ちゃんのブログ、文章は不器用だけど、いつでも「今のモーニング娘。カッコイイよ!」って言ってくれてますからね。
そんな風に思います。
子を持つ親、部下を持った上司、人は誰かを思いやることで強くなります。自分のためなら堪えられないことでも、誰かのことを思うと頑張ることが出来ます。
メンバー各々が 【恩返し】 の気持ちをこめて活動することが出来れば、この半年で彼女たちは見違えたようになる。漠然とだけれども確信に近いような気持ちで、期待をしています。
道重さゆみも、今の若き娘。たちも、これまで以上に見逃せない半年間を過ごします。
◆ ◆ ◆