【ネタバレ】D2舞台『TRUMP』と演劇女子部『LILIUM』をまとめて観た解釈
当postは元も子もないくらい盛大にネタバレを含みます。
というか、「具体的にこの場面は○○である」といったものではなく核心に触れたテーマの話をします。ですので、以下に該当する方は観劇後にご覧になることをオススメします。
- これから『LILIUM』を観る予定の方
- 『LILIUM』を観たけどこれから『TRUMP』も観る予定の方
6月7日、モーニング娘。'14選抜メンバー×スマイレージ×ハロプロ研修生3名による 『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』 の3日目の公演を観てきました。
予習のつもりで、直前にD2の舞台DVD『TRUMP』を観たのですが、2つの作品を合わせて観ることで様々な思いが巡ったので、舞台の感想というよりも両作品を通じたテーマについて書いてみたいと思います。
以下、ネタバレに入るまでのインターバルとして、経緯を簡単に。。
6月6日 夕方 『TRUMP』を知る
そもそも直前に観劇が決まり特に事前の予習もしていなかったのですが、ネタバレ回避の合間にたまたまこちらのツイートを見つけたのがきっかけ。
TRUMPも16人でリリウムも16人なのね。16人たまたまなのかそれとも何か意味があるのかな
— こめこさん。 (@okmbtk) 2014, 6月 6
直感的に面白そうだとAmazonで『TRUMP(REVERSE)』をポチリ。今考えると運命的でした。
6月7日 13:00 DVD到着→即、再生開始
Dステのサイトの人物関係図と見比べつつ、随所で一時停止しながら、2時間半の内容を3時間半かけて。
『LILIUM』観劇前に、末満さんの世界観を学習中。。 pic.twitter.com/WgpHXPBPR1
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 7
序盤、『TRUMP』は「ギムナジウム」で『LILIUM』は「サナトリウム」であることが気になりました。着目点として悪くなかったようですが、この時点では学園モノは鉄板だなあ程度でした(笑)。
『TRUMP』観終えた。好きが狂気になるってのはファンタジーに限った話じゃないよね。。さて、『LILIUM』に向かいます。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 7
そうして観終えると、噂に聞いた「布石の回収の秀逸さ」「非情な展開」について、それが確かであるのだと確信するのでした。
6月7日 18:30-20:30 観劇
とりあえず、ネタバレと関係ないツイートをひとつ。
Dスタの『TRUMP』は舞台役者が台詞の説得力と殺陣とアドリブで魅せるのに対し、姉妹作の『LILIUM』はハロプロの武器である歌とダンスのキレが要所に緊張感を与える演出になっていて、末満さんの本職への厚い信頼を感じたし、期待に応えた彼女たちもお見事だった。 #LILIUM
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 7
※「Dスタ」でなく「Dステ」です。失礼しました。。
とりあえず、ハロプロファンっぽいことを言ってみたものの、ハロプロ舞台ではなく、末満舞台のキャストを担当したのがたまたまハロプロメンバーだったという印象を受けたというのが正直なところ。
その後、Twitterで感想を眺めていて、さすがに 【絶対に言っちゃいけないこと】 をネタバレしている人はいないよなあって思っていたのですが、その後お見かけしたツイートに気づきを与えられます。
以下、本編(=ネタバレ)に入ります。
当postでは、専ら両作品を観ることで分かることについて書いていきたいと思います。
というのも、『LILIUM』を観ると誰もが第一声で「凄い」とつぶやきますが、その次の言葉が見つからず座席でぐったりとします。凄惨な場面を目撃して頭の整理がつかないのですが、時間を置いて考えてみると、やはりテーマの重さによるどうしようもない気持ちがのしかかってくるから、というところがあると思うのですよね。
では、もしこの「テーマ」に着目するのであれば、この作品の背景が分かる『TRUMP』を含めて考えて語ることで、その重さの本当の意味を知ることができる(たまたまDVDを観ただけで偉そうですが)のではないかと思ったのです。
そして何より、彼女たちが何を背負って演じているのかが見えてくるのではないか、と。
物語の一大テーマ
いきなり核心に触れる話ですが、Twitterで「ファルス ソフィ」で検索してみると、直接的な書いているツイートはほとんど見当たらず、あっても予めネタバレすることを断り書きしています。
- Twitter 検索 「ファルス ソフィ」 http://bit.ly/1pa9Xt6
基本、自分のフォロワーさんで今後観劇予定の人がいたら言えないよなあといったところですが、一昨日たまたまお見かけしたツイート。
ネタバレがネタバレじゃないっての初めて経験したわ。私が思うに、TRUMP観てから行った人はネタバレしないように心がけているんじゃなくて、ネタバレ以前に衝撃すぎて感想書けなかったんじゃないかと予想する。
— yochi. (@high___low) 2014, 6月 8
確かに、「こんな残酷なこと言えないよ」って感覚は分かります。そして、それ以上に思うことは、『TRUMP』を観た人とそうでない人では腑に落ちる部分が違っているのだよなあということ。『LILIUM』単体で観た人には最もハッとする部分には気づけない仕組みになっていますよね。
『LILIUM』に用意された「そうだったのか」
前述のとおり、布石の回収が見どころになっているため、序盤で「?」と思った所は気に留めていた人も多かったはず。
そういった意味で、おそらくいきなり『LILIUM』を観た人が最初に布石っぽい事柄として気に留めていたのが「なぜ薬を飲むのか?」だったと思うし、後半でファルスがコントロールするアイテムになっていることが分かり、「そうだったのか」とキレイに腑に落ちます。ここが最も分かりやすい布石の回収だったと思うんですよね。
あるいは、文字によって明示的に「繭期=思春期」と説明することで若い間の一時的な期間であるかのように見せたけれど、実際は薬が続く限り永遠だと分かり「そうだったのか」が生まれました。
これらは、クランの生活を初めて知るのであれば、序盤の設定説明のくだりでジブリ風味のほのぼのとした歌とともにそういうものだと受け取ることになるので、後から「そうだったのか」を迎えるに程良い隠れ具合となりました。
この点で『TRUMP』は、設定説明に文字は使わず(演者のスキルもあるのでしょうが)口頭で説明しています。また何より薬を飲む習慣が無いので、全員が薬を飲む場面に強烈な違和感を感じました。クランの位置付けが、『TRUMP』で「ギムナジウム(=中等教育機関)」であるのに対して『LILIUM』が「サナトリウム(=療養所)」であるという違いが気になっていたので、この時点でちょっと化学的なラボの匂いを感じましたね。
『TRUMP』の続編として用意された「そうだったのか」
一方で、すでに『TRUMP』を観た人にとっての布石の回収は大きな一点に尽きます。
「ファルスがソフィだったとは……」
この事実を知って、心の中で大きくため息をつきガックリ肩を落とす思いでした。末満ヴァンパイア物語の世界観として、見どころは間違いなくこの一点です。
そもそも、『TRUMP』経由で『LILIUM』を観に来ている人は、「誰がトランプなのか?」を探りながら見てたと思うんです。ただ、そこばかりに着目するとメンバーの歌や演技を見逃すのでわたしはあまり執着はしていなかったんですが、それでも主従関係が明らかになるにつれて絞られるのですよね。
で、地下室で写真が見つかり時間軸の開きに対する謎解きに迫る展開になった辺りから、途端に様々な人間に既視感が透けて見えてきて、とある寂しい気持ちをかかえた人物が居たことを踏まえながら見るようになり、その直後、ファルスは「ソフィ・アンダーソン」という名前を明かします。『TRUMP』で望まぬ永遠の命を手に入れてしまった悲しい主人公。。
だから、たぶん無意識下でため息をつき肩を落とす準備はできていたような気がします。
名前が明かされた瞬間、『TRUMP』の冒頭と末尾で廃墟を彷徨い寂しがるソフィの姿が一気にフラッシュバックして、ファルス(=ソフィ)がこの模擬的なクランを作ったことが恐ろしいほど深く腑に落ちていき、そこはかとなく悲しい気持ちがこみ上げてくるのです。哀れむ気持ちで、ただ「そうだったのか……」としか頭に浮かばなくなってしまう。
説明は続き、親友の「ウル」の名を薬の名前につけていると言います。これには目を覆いたくなるような思い。薬と言いつつ実体は血。血がウル。ウルは死ぬ間際「生まれ変わったら君になりたい」と言っています。自身の血であり、親友の血でもある。どこまでも孤独の寂しさをかみしめたソフィの語りには、何とかしてつながっていたい狂気なまでの情念がこもっていて、工藤が謎解きの一言一言を発するごとに、その言葉が刺さってくるような思いがしました。 *1
これは前作を知らなければ、どうやっても理解できない感情だったと思います。特に、ウルについては『LILIUM』だけ観た人のネタバレにはまず載らない内容です。ネタバレを巡回した上で観劇したというD2ファンの方の感想に「これは聞いてなかった」という声をお見かけしました。
前者の、薬が鍵になっていたことは、物語の組み立てとしてよく出来た仕組みなのだけど、後者の、前作の登場人物が出ることによって舞台を超えて布石を回収する場面は、それ自体が大きな物語のテーマとなっていて、名前を明かした瞬間にこの悲劇の重さが伝わるという意味でよく出来ている、いや、見る側を辛い思いにさせるほど出来過ぎた作りでした。
「輪廻」であったり「因果」であったり、複数の舞台をまたいでソフィ・アンダーソンの悲しい運命を知ってしまった時の「そうだったのか」の重さは台本の組み立ての秀逸さとは別次元の意味を持つ仕掛けでした。
思い入れの狂気
池袋に出発する直前、『TRUMP』を観終えた時点でのわたしのツイート。
『TRUMP』観終えた。好きが狂気になるってのはファンタジーに限った話じゃないよね。。さて、『LILIUM』に向かいます。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 7
クラウスから始まった連鎖
そもそも、すべてはただ一人のトランプであるクラウスから始まっています。
創造神のような存在でありながら不完全な心も持ち合わせたことから、すべての悲劇の起点になっているのですよね。彼の感情の機微はイニシアチブを通じてすべてのヴァンプに伝染し、妬み・憎悪・殺意の気持ちを招きます。人間との諍いやダンピールとの争いにヴァンプ同士の愛憎劇、すべてはクラウスに起因するため、周りはクラウスに見張りを立ててきました。
しかしアレンへの行き過ぎた愛情は周りのすべてに影響を与え、結局クラウス一人の手によって数多くの死と何よりソフィの不老不死という大きな悲劇が生まれます。それが『TRUMP』のクランで起きた出来事です。
一方、ソフィという人物を通じて一つの時間軸でつながる『LILIUM』の世界は、実はその悲劇が再び繰り返される様子を描く構図になっています。クラウスがソフィに永遠の命を与えたのと同様、今度はソフィが自分の行き過ぎた愛情によってリリーに望まぬ永遠の命を与えてしまう。そこに至るまでの顛末。すべては狂気のトランプを中心に起きる【悲劇の連鎖】を追う骨組みになっているのですよね。
実は、連鎖は冒頭から始まっています。過去の悲劇が繰り返されていることを暗に示す構図をファーストカットに入れているのです。
クラウスに愛されたアレンが永遠の命を拒否してこの世を去ったシーン。同じく薬を拒否して世を去ったシルベチカが胸部からせり上がるように起きる冒頭の姿そのもの。白い衣装やBGMも前作とオーバーラップさせる演出。
以降、繰り返されるドラマであるがゆえ、実は一見「起承転結」の前半部分と思われていた事柄も、「起」「承」自体が実は前作の「受け」として機能していて、連鎖のドラマは着々と進んでいたのです。
もちろん、冒頭のシルベチカが起き上がって歌うシーンは『LILIUM』単体ではサスペンスの序章として機能します。『TRUMP』のアウトプットであり、かつ『LILIUM』のインプットとして機能して、謎解きの材料へと運ばれていくのですよね。ここがこの作品の面白味です。
そういったように、全編において「既視感」と「意味を持つ場面」であふれていました。最初にマリーゴールドが首に噛み付こうと大きく口を開けた時点で、自分の中で「さっきDVDで見た構図(=噛み付く角度)」だと感覚的に判ってリリーの危険を察知したのですが、それ以外にも「さっき聴いたBGM」「さっき聴いた台詞」、そして「さっきと似たような場面」が散りばめられていたように思います。
上に載せたアレンもシルベチカもトランプに対して拒んだことで悲劇を招き、ダンピールとして生まれたウルもマリーゴールドも渇望と嫉妬深さから刃を向きます。ストーリー上の意味を持つ場面もあり、例えば、「庭師」を歌ったり「社交ダンス」を踊るのも前作とのつながりによるものです。そういった様々な連携が用意されていました。
連鎖の物語が生み出す効果
連携の仕掛けの数々、それらが何を意味するかというと、すべては罪深いクラウスの行動が延々と悲しみの連鎖を生んでいるという【残酷さを強調する仕掛け】になっているんですよね。これこそが物語の大テーマであり、悲しい印象を色濃くする要因になっています。
物語が進み、『TRUMP』で不老不死を望んだウルが見離され、望まなかったソフィに永遠の命が与えられたのと同様、『LILIUM』で事態を理解して生き続けることを望んだスノウは死に、代わりに望まぬリリーに永遠の命が宿されます。かつて絶望の淵に立たされたソフィが次の絶望のバトンをリリーに渡し終えるところまで、すべてにおいて強烈な既視感を与えたままドラマは幕となります。
既視感を重ねれば重ねるほど、繰り返される絶望に終わりがないのだと実感していきます。 死ぬことは出来ず、ただ絶望が続く。そして新たに宿命を背負う者を生んで、おそらく絶望の連鎖は終わらない。。
どちらの舞台でも、クランに生活する者は皆どうやっても抗えない運命を背負っていて、それを知らずに暮らしています。だから、劇中で「知らないほうが良い」と説いていたのですよね。
できれば観劇しているわたしたちも、ある意味知らないほうが幸せだったんですよ。でも、顛末を知らずして幕が引かれることはない。だから、『TRUMP』と『LILIUM』によって連鎖されていくことを知ってしまったファンは総じて、幕を見届けると絶望的な気持ちを抱えて帰宅の途についていったわけです。
布石が回収されればされるほど悲しみの追憶が重ねられる。この【悲痛な思いを共有すること】が『TRUMP』から『LILIUM』につながる因果関係のドラマの一番の醍醐味になっているのですよね。非常に秀逸な構成。
どこまで行っても、およそアイドルに似つかわしくない絶望的なドラマなのです。
※DVD『TRUMP』→舞台『LILIUM』→帰ってからDVD『TRUMP』で確認 という都合3回観ただけですので深堀りできていませんが、解釈に誤り等あれば、コメント欄にてご指摘いただけると幸いです。誤解が生じぬよう速やかに訂正させていただきます。(特にD2ファンの方がご覧であれば)
解釈はここまでですが、補足的なお話を。
ハロプロファンが『TRUMP』を勧めたい理由
最初、一にも二にも 「『TRUMP』を観ないなんてもったいないよ~」 という思いで一昨日から書き始めたんですが、振り返ってみて、『LILIUM』もそれ自体がストーリーとして完結していますし、何より歌とダンスが好きなハローのファンにとっては、あのミュージカルの満足度は非常に高いものでした。
では、それでも『TRUMP』からのつながりが愛おしいのは何故か。
それは、その人の性格にもよりますが、仮に周りに「最近知ったばかりだけどモーニング娘。'14が好きなんだよね」という人がいたとして、ライブ中の昔から歌い継がれている曲について語られた時、「実はこのメンバーは以前いた○○ってOGと似たようなところがあってね……」と、背景を伝えてもっと好きになってもらいたいと思う気持ちが湧いてくることがあると思うんですよね。
「TRUMP観といたほうがいいよ」論について、もちろんLILIUM単体で間違いなく完成品。ただ、だーいしのHDYLJはガキさんのHDYLJを知ってると感動が倍増するし、プラチナで止まってる人は'14のライブを見なきゃでしょ!みたいな時間軸を超えた交流をしたくなるんだと思うよ。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 10
※このツイートについてD2ファンに方からご指摘をいただきました。詳細はコメント欄参照。[6/11追記]
わたしは、いきなりそれと同じ感覚に陥ってしまったような気がしています。
末満トランプシリーズは2009年から数本の舞台が上演されていますが、その全作品に出ている役者さんは一人も居ません。だけど、物語はつながっている。この状況で、末満さんをつんく♂Pに置き換えて考えてみたら、どこかのグループに通じてくる話です。
D2のみなさんの舞台がとても好感触だったというのが何よりあるのですが、それを引き継いで『LILIUM』に集中力を研ぎ澄ませているメンバーを見たら、シンパシイみたいなものを覚えました。
だから、『TRUMP』に対する『LILIUM』はモーニング娘。の歴史の中の「'14」だと思えば位置付けとして近いかもしれません。後藤も高橋も知らなくてもライブは楽しいし、過去から入って前後のつながりを知ることで物語に深みを増します。
一方、D2ファンの方々の間で日に日に「『LILIUM』も観るべき!」という声があがっているようですが、これはモーニング娘。のファンに置き換えれば、プラチナ期で燃え尽きたファンがいたら高橋愛の横で踊っていた鞘師里保がセンターを務めた『One・Two・Three』は衝撃的だから是非観たほうがいいよ、という思いに近かったりするように思います。
ここらへんは主観によることでありキリの無い話ですが、それとは別でもう一点。
今回のハロプロ選抜メンバーの16人はおそらく末満ワールドの世界観を紡ぐ役割に対して出来る限りのことをやってやろうという気概を持って臨んでいると思うんですよね(少なくとも工藤は過去作を参考にしています *2 )。
そうであれば、末満ワールドをより深く踏まえて観た方が、ファンとしては彼女たちの心意気をダイレクトに感じることが出来て望ましいのではないかと思うんです。
ここから先は、そんな役割を引き受けたメンバーの話。
真の主人公の抜擢
『LILIUM』の主人公は鞘師里保演じるリリーですが、末満ワールドでとらえるとストーリー全体の主人公は工藤遥演じるソフィ・アンダーソンであることが分かります。
真の主人公を支えたエピソード
誰の配役か確認していませんが、末満さんが、自身のライフワークとも言うべきドラマの真の主人公である工藤に対して並々ならぬ思いで指導したであろうことは間違いありません。
開演の2週間前、末満さんがこのツイートをRTをした時は、そんな役柄だとは思いもよりませんでした。
[10期11期 Blog] リリウム=TRUMP☆工藤 遥: こんばんはるか~♩ 今日も稽古っ! だいぶ、振り付けの方もついてきて、順調ですぞっ٩( *˙0˙*)۶... http://t.co/CCmCBPLMhn #morningmusume14
— モーニング娘。'14マネージャー (@MorningMusumeMg) 2014, 5月 20
マネージャーのツイートのリンク先、工藤のブログにはこのような事が書かれています。
今日も稽古しました♩ やーっと全部のダンスがついて、よりミュージカル感出てきたな~って感じしてます。 昨日、末満さんからのダメ出しをもらったんですけど、そこに「難易度が高く、大変だろうけど、俺も含めみんな工藤の味方だから」って言ってくださっていました。 こうして、今回ファルスをハルにやらせてくださったってことは、多少なりとも末満さんがハルに期待してくれてるってことなのかな?って最近より感じます!! その期待に答えたいとも思うし、それを上回ることが出来たらな~っ思います! ジブンファイト!!!
/(´-`).。oO(☆工藤 遥|モーニング娘。‘14 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba(2014.05.21付) |
この時点では軽く読み流していたのですが、今となっては、間違いなく要の役割である工藤を鍛えつつも、潰れないようにスタッフ一丸となって守っている様子が伝わってきます。末満さん以下、舞台にかける熱い思いが感じられる一幕でした。
工藤にかけられていた期待
公演前、ハロプロファンはミスリードされていたかもしれません。
稽古中のエピソードとして、工藤の壁ドンが他のメンバーをメロメロにするという噂でもちきりでした。その事にファンは沸き、その姿が見たいという期待が高まったことで、そのまま「男役としての立ち姿」を工藤の演技の習熟度として評価しようとしていました。
が、『TRUMP』から連なるテーマを考えると、そこはそれほど重要じゃないんですよね。ハスキー声や背が伸びたからという部分もミスリードを助長していたと思うのですが、そこはやはり14歳の少女。16名の中でマーガレット親衛隊を除けば最も年下下から3番目(4番目でした。コメントでご指摘いただきました)。他のキャストを惚れさせる程の男性の色気はミスマッチだったわけで。*3
本当に工藤に求められていたのは、行き過ぎた愛情が狂気に変わっていく様子のリアリティでした。その狂気が増せば増すほど、上述のテーマの通りクラウスの業の深さが際立ち、クランの悲劇やその先の絶望感が色濃くなるのです。
実際の場面は「ソフィ・アンダーソン」であることが明かされた後にやってきます。
事の顛末を説明し、徐々に気持ちを高揚させて行き、「君たちは最高傑作だ!」と言い切ったポイントを頂点に、不老は叶ったが不死の状態にまで達したか分からない、確かめるためには一旦殺してみなければいけない、でもそれは出来なかった、なぜならリリーとスノウを愛しているから……と二人への愛情の強さゆえに気持ちが崩壊した状態で饒舌に語る狂気の場面です。
この場面こそが「そんな人間になってしまったソフィ」に対するどうしようもない絶望感を与える大切なポイントでした。それはかつてクラウスが手のつけられない状態となってソフィに噛み付いてしまった時の興奮状態と同じだけの沸点に持っていく必要がありました。
本当にそれらしさを再現するためには、興奮のあまりへらへらと笑えてくる状態まで頭いっぱいいっぱい空転させる必要があります。昨日ちょうど役作りについてブログで語っていました。
舞台やってて、怒りの感情というか、ムカつくとか逃げたいとかイライラとかいう感情が一切なかった自分に少しづつそういった感情も現れてきたんです。 それからです。 ハルがその子を演じるんじゃなくて、その子に乗り移れるようになったのは。 自分がそう思うだけで、実際に見てくれた方がそう思ってくれたかどうかはわかりませんが..... 今回もファルスに乗り移れてきてると思います。 でも、まだまだなんですよね。 ファルスだったら、そうはならないのになってしまった時は、完全に工藤遥が出てきてしまった瞬間なんですよ。 ファルスはもう涙も枯れてるヤツだと思ってます。 なのに、やってて涙が出てくるとこがあるんですよ。 それって完全に工藤遥が出てきてるんですよ。 そこが今の一番の目標かな。 自分を押し殺して演じなきゃね。
/早くヴァンプになりた〜い!工藤 遥|モーニング娘。‘14 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba(2014.06.09付) |
自身に役柄を憑依させようと日々戦っている様子。そんなことをしたら神経はズタズタですが、最後に「今は役者なんだから」と言い切っている通り、期待に応えようという強い意志で臨んでることが分かります。
おそらく稽古中に沢山の挫折はあったでしょうが、ここまで踏ん張れた背景には普段のコンサートでなかなかスポットが当たらぬ忸怩たる思いがあったかもしれません。
話は舞台に戻って、ファルスの最後の場面。その場の全員が倒れ、断末魔のような叫びをあげた後、ふと我に返ったファルスは淡々と言います。
ファルス(=ソフィ)「まあいいや。僕には時間はいくらでもある。それこそ、永遠に。」 *4
これは『TRUMP』の最後のモノローグに対応するものです。
ソフィ「大丈夫、時間はたっぷりあるんだ。永遠はまだまだ始まったばかりだ。」
日程の4日目、わたしがDVDで観た『TRUMP(REVERSE)』でソフィ役を演じた三津谷亮さんが観劇されたそうで、当日のブログにはこうありました。
一緒にクランで生活を共にした仲間たち。 忘れてはいけない大切なもの。 美しくも儚い吸血種の物語。 観ていて切なくなったり、懐かしい匂いがしたり、胸が詰まったり… 目頭、身体、心、全部が熱くなりました! 見終わって下半身が振るえて立ち上がれなくなってしまいましたよ… 繭期になってしまいそうです(笑) これから「LILIUM」を見る方には是非「TRUMP」を見て頂きたいし、 「TRUMP」を見た方には是非「LILIUM」を見て頂きたいなー♪
/「LILIUM- リリウム少女純潔歌劇- 」|三津谷亮オフィシャルブログ「ミツトノソウグウ」Powered by Ameba(2014.06.08付) |
演者についての評価コメントはありませんが、彼が当時を想起したということは、彼女は前作のソフィの意思を引き継いで演技をしていると認めてもらえたのではないでしょうか。
それにしても、劇の世界観ばかりが頭をぐるぐると回っていたところから、ようやくハロプロファンとしても咀嚼し始めていますが、そういや工藤はお化け屋敷が無理(リタイアでなく入口の前で号泣して棄権)だった超怖がりな子供。そんな彼女がよくこの役をよく引き受けられたなあと今更ながら思います。笑
ハロプロの責任範囲
これは「ハロプロの舞台」ではないと思っています(主催や興行面での主体がどこにあるかとは別に作品の位置付けとして)。作者の思い入れが強いであろう連続するストーリーの中で、まったく別グループが担当した前作を受けて、因果関係の結果を見せるという重責を預かる外部活動です。
『LILIUM』ってハロプロメンバーしか出ない芝居だけど、昔みたいな「ハロプロの舞台」に作家を呼んだのではなく、そもそも末満さんの思春期ヴァンパイヤの世界観を色んな役者がピースピットで演じてて、前回はナベプロ若手とタッグして紡いで、今回はハロプロが担当しましたってことなんだよね。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) June 7, 2014
『LILIUM』を観終えて、是非これから観劇する人に『TRUMP』を薦めたいと思ったのですが、ひとつ困ったのが、うかつに一貫したテーマがあることを伝えてしまうと、『LILIUM』は外伝(スピンオフ)と捉えられてしまうのではないかと気になりました。
でも、いざ作品自体の出来はどうだったかというと、ワタナベエンタ若手のD2のみなさんが演劇のプロとして演技で魅せているのに対し、ハロプロ若手は歌とダンスのプロとして、中野の舞台で鍛えた実力を発揮している。どちらも、自分たちの武器をふるうことによって、劇中の緊張感やスピード感であったり、ユーモラスとシリアスのメリハリであったりを色濃くつたえている。だから、両作品にあるのは時間的な前後関係であって、舞台間の上下関係は感じられなかった。それは自分の中でハッキリさせておきたくて、観劇後にそんなことをツイートをしました。
Dスタの『TRUMP』は舞台役者が台詞の説得力と殺陣とアドリブで魅せるのに対し、姉妹作の『LILIUM』はハロプロの武器である歌とダンスのキレが要所に緊張感を与える演出になっていて、末満さんの本職への厚い信頼を感じたし、期待に応えた彼女たちもお見事だった。 #LILIUM
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2014, 6月 7
これは帰り道が一緒だったみなと辰巳さん(@minatatu)とも話して一致した事なんですが、思春期の等身大の年齢でありながら、演技・歌・ダンスのトータルで及第点のメンバーを揃えられるのはハロプロの強みだなあと実感できたんですよね。そもそも『ステーシーズ』もそうでしたが、あれだけ凄惨な場面を含む作品のキャストとなると、きちんとお仕事として引き受けられる団体でないとオファーできないし。
長らく「聖地」中野を中心に内輪のファンと鍛えてきた感があるハロプロのステージアクトですが、いざ外部の客観的な目も集まる舞台を踏んだ時に、これまでの蓄積(歌・ダンス)を活かせる舞台であったことは「絶望」をテーマとした劇に見出せたハロプロの「希望」だったと思いました。
それもあってか、みなとさんとの会話はその後、「絶望がテーマではあったけど、観た後の気持ちが絶望そのものというわけではなく、絶望の概念を考えさせられる作品で面白かったよね」という話になりました。
上で引用した通り、D2の三津谷さんにとって前作を想起させる作品であったわけですが、肝心の末満さんはいかがだったのでしょう。
これはゲネプロ時点での末満さんのツイート。絶賛です。でも、うがった見方をすれば、開演直前ということで多方面へのリップサービスが含まれているかも……という可能性もあります。
『LILIUM-リリウム少女純潔歌劇-』最終通し稽古終了。この内容をここまで魂込めてやってくれるアイドルがほかにどこにいるだろうか。僕は今、とても感動してます。
— 末満健一 (@suemitsu) 2014, 5月 30
聞く所によると、土曜日(3日目)と日曜日(4日目)で台詞にもいくつか変更点があったとか。だから、最終的に東京・大阪の全日程を終えた時点で、再度ハロプロメンバーの取り組みに対する評価を聴いてみたいですね。
そして、もしも叶うなら、末満さんがライフワークとしてヴァンパイヤの絶望の連鎖舞台が更に続けられるとして(それは末満さん主宰のカンパニーなのか、別でタッグを組むグループなのか、あるいは再度ハロプロなのか分かりません)、別の役者さんがリリーを演じるにあたり、14歳の工藤遥と16歳の鞘師里保とで表現された絶望感が同じ熱量で受け継がれた時、そこで初めて末満さんの期待に応えることが出来たと言えるのではないかと思います。
筋書きは「絶望」、作品は「秀逸」、そしてハロプロにとっては「希望」を感じる、とても興味深い舞台でした。
◆ ◆ ◆
そりゃあ、役に入り込んだら凹むだろうなあ、と。
ナルシストにでもならなきゃやってられなかったであろうストーリーでした。
*1:「生まれ変わったら君になりたい」は『TRUMP』のTRUTH/REVERSEの切り替えのギミックにもなっている重要な台詞。これが『LILIUM』につながっているかの様。 Dステ12th「TRUMP」感想まとめ - Togetterまとめ
*2:工藤が末満さんからDVDを借りて参考にしているのはD2舞台ではなくピースピット版みたいです。 リリウム=TRUMP☆工藤 遥|モーニング娘。‘14 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba
*3:参考: TRUMPファンの方のためのLILIUM(リリウム)キャストまとめ - NAVER まとめ
*4:レポお借りしました。 LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇- を観てきた(ネタバレするよ)|田舎暮らしのハロプロメモ帳。