工藤遥が卒業したら、もう一度見たい『若いんだし!』MV
20周年をむかえたモーニング娘。
64枚目のトリプルA面シングルはいずれも印象的な楽曲が揃いましたが、中でも『若いんだし!』は、今のモーニング娘。の魅力に溢れた映像です。
工藤遥という存在を中心に、とてもキラキラとした青春そのものが描かれ、いかに彼女がグループ活動を謳歌しているのかが存分に現れた作品になっています。
工藤遥の一期一会
最初に「ハロ!ステ」で見た第一印象は、彼女のハロプロ人生の縮図みたいだなあと思いました。なんとなく、映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』のような。
プレスリーにギターを習ったり、TVショーでビートルズと共演したり、ベトナム戦争をともにした先輩と生活したり、刺激的な人物と出会うことで成長を遂げていく物語。
出会いと別れは、モーニング娘。という長い物語には欠かせないエッセンスです。トム・ハンクス演じるフォレストと同様、彼女もまた様々な個性に出会い、まさしく「一期一会」の出会いと別れが彼女を大きく成長させていきました。
先輩も後輩も。
そして、一生の親友となるに違いない同期も。
それは一瞬の出来事で、彼女は歩みを止めることはありません。家族以上に長い時間生活をともにした仲間たちとの活動も、今になって振り返ればあっという間。
楽しい時間はあっという間なんて言いつつ、実際は悩みやプレッシャーで押し潰されそうなことが沢山あったと思うんですけどね。それでもあっという間だと思えるのは、今となっては「そんなことあったね~」と笑って語れる昔話になってるからなのかなと思います。
--インタビューで、最初の単独ツアー『ウルトラスマート』の頃を振り返る。
工藤「越えられない壁がめっちゃ一杯あるから、そこは大変でしたね。当時一緒に活動してた、道重さん田中さん新垣さん光井さん、9期さん、が もう まず一個壁としてあって、そんでもってめちゃくちゃ歴史のあるグループで、もっともっと先輩たちが沢山いて、、」
ナレーション「プラチナ期と言われる優秀なメンバーたちを前に、落ち込む工藤。そして、同期のメンバーたちにも。」
工藤「同期も、やっぱり、各々得意分野を見つけてきて、花を咲かせ始め、『あれ?なんか置いてかれてる?』みたいな。
どんどんどんどん、まーちゃんがすげー歌が上手くなりましたとか、あゆみんは元々ダンス上手なのに更に上手になりましたとか、はるなんは入って早々もうMC任されるようにトーク部分任されるようになりましたとか、
目立てる、必要とされる場所を、割りと早々見失いましたねえ。はい。
ずっと端っこの方に居て、ここから変われることは無いのかもしれない って思った時もあったんですけど、でも、今まで以上にもそうですし、今まで通り、やることはやるし、当たり前のことは当たり前にやり続けるのが、たぶん出来ることなんだろうなって当時思っていて……。」
/テレビ東京『The Girls Live』(2017.10.02放送)
いつの間にかどぅーの「キャラ迷走中」なキャラが無くなってたよね。焦ってた当時を語る後ろに無音のコンサート映像が流れてて妙に印象的だった。 #TheGirlsLive
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2017年10月2日
本当は悩みがちで、他に人気のメンバーがいたら妬ましく思ったり、出来ない自分にヘコんだり、やがて「キャラ迷走中」なんて自虐も織り交ぜたりして。今じゃ懐かしいけれど、想像していた以上に悩んでいたんだなあと思い返します。
でも、それでも強気に前に出て、言いたいことは妥協せずに言って、そんな弱気な様子を感じさせない 何か を持ってたよなあとも思います。
工藤遥の魅力=「中二」であること
卒業発表からあっという間の7か月、沢山の出来事があったけれど、一番グッときたのは何かと言われたら、卒業を決意した経緯を語るブログだったように思います。
「あの悪ガキが立派になって……」と、胸がキュンとなるような思いがしたんですよね。
周りに頼ってばかりの自分が、
1人で悩み、考え、
次のステージに進む事を決めました。
/ ご報告 工藤 遥|モーニング娘。‘17 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba (2017.04.29更新)
工藤の一番の魅力、それは「中二」であることだと思っています。冗談でなく、真剣に言ってますよ(笑)。ずっとピュアな部分を包み隠さずにいましたよね。本当にまっすぐにムキダシで。
喜びも、
「小田ちゃん!!!」
53rd.シングル『Help me!!』で初めての1位を獲得した興奮のあまり小田さくらに抱きつく。その喜び様とその後の小田の「ティッシュを失礼します」は当時の界隈でBuzzった。
/ モーニング娘。 オリコンウィークリーチャート1位コメント!! - YouTube (2013.01.29公開)*1
怒りも、
「真面目にお仕事しに来てるのにぃ(涙) なんですか!何笑ってんですか!!(怒)」
イスが人数分用意された状態で椅子取りゲームをするというシュールな企画に、納得がいかずブチ切れる。しかし結果的に、最後までちゃんとシュールをやりきったことで、スタジオの浜ちゃんもツッコミではなく「これは、面白かった…」と賞賛のコメント。
/ フジテレビ『教訓のススメ』(2014.01.26放送)
哀しみ(?)も、
24時間テレビ②
— モーニング娘。'17マネージャー (@MorningMusumeMg) 2013年8月26日
最後まで出たかったよー、と悲しがる中学生。
このあと、大島さんのゴールに本当の涙。泣き虫くどぅー。
#morningmusume pic.twitter.com/Km9xofyhc9
そして、もちろん楽しさも。
/「MORNING MUSUME。 DVD MAGAZINE Vol.56」(2013.10.20発売、ミチシゲ☆イレブンSOULのオフショット映像)
間違いなく、ひときわ注目を集めるメンバーの一人であったことは間違いなかったと思うんですよ。
歌番組に出れば「黒髪ショートの子が気になった」というツイートが必ず見つかり、かのJuice=Juice宮本佳林が同じ10期オーディションに落選した際、「私には華が無かった」と反省するに至る視線の先に居たのは、他ならぬ当時11歳の小学生・工藤遥であったわけで。
歌やダンスの技術うんぬんを超えた、その人だからこそ持っている存在感、とりわけ、子どもが思いの丈を何の躊躇も無くぶつけてくる痛快さが、見逃せなかったんだと思うんですよね。
多くの人が「悪ガキ」と言いつつ、それでもやっぱり気になって見てしまう。
アイドルに夢中になるファンって(自分も含めて)どこか必ず「中二」を頭に飼ってるみたいなところがあると思うんですよね。気になったら損得勘定無しにのめり込み、時に喜怒哀楽が抑えられないこともある。
ファンが抱く喜怒哀楽があって、そんな中、その気持ちを代弁するかのように、ファンの想像を超えた感情で表現する(例えば、テレビ出演で思う存分暴れてやれーという思いで見てたら出川に蹴りを入れちゃうような笑)。
そんな少年のような女の子に鷲づかみにされていました。
だからこその今の感慨があるわけですが、では、そんなヤンチャな子どもを成長させたものって、一体何だったんでしょう。
ハロプロに成長をもたらすもの
居場所が無いと焦り、もがいた工藤は演技の道に活路を見出します。それ以前から舞台のお仕事はいくつかこなしていましたが、工藤の出世作が『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』であることは、自他共に認めるところです。
最年少の「ボーイッシュ」キャラが、シリアスな場面で悲鳴を挙げて悶え苦しむ姿を全力で見せると、まるで痛みさえも伝わるかのように、観た人たちにぐさぐさと刺さりました。
※当ブログのアクセスの3分の1は『LILIUM』の検索やリピートです。
そして、その地位が不動のものとなったのは、翌年の『TRIANGLE』の頃だったように思います。
ギラギラとした役柄から一転 心優しく純朴な青年を演じきった彼女は、そのときには間違いなくモーニング娘。の「舞台のエース」として誰もに認められるところとなります。
で、ここで考える、「成長させたのは何だったんだろう」のヒントが、わたしは『TRIANGLE』にあるような気がするんですよね。
舞台『TRIANGLE』の世界観
この物語には、王族が居て、家臣が居て、城下町には日々を活き活きと暮らす露天商たちのコミュニティがあって……。それはよくある話なんだけど、あの物語が涙を誘うのは、そうした様々な立場にあるアルファ星の住人たちが、相手を思いやる気持ちでつながっているところなんですよね。そのいじらしいまでの思いやりから生まれる絶妙なすれ違いが、何とも言えず切ないドラマを生み出します。
アサダ(工藤)「ローズウッドさま、あなたのおかげで私は愛というものを知りました」
ローズウッド(小田)「愛って何?」
アサダ(工藤)「自分よりも誰かを大切に思う心」
わたしはこの物語を見ていて、どこかハロプロみたいだと思ったんです。アイドルフェスなどから離れた辺境の星に育つ彼女たちが、身分差はないけれど活動規模の違うグループがいくつかあって、しかし各々が活気を持って暮らし、触れる機会があった時は思いやる気持ちでつながっている(脚本・塩田氏の狙いがあったのかも)。
その時に、ひとつだけ疑問があって、アルファ星の住人が争う気持ちを抑えて暮らせるのはこの星の鉱石「イプシロン」の効果だとされていたんですけど、じゃあハロプロにおける「イプシロンってなんだろう」って思ったんですよね。
で、当時から最近はいい子が多いよねという話になっていたのですが、その時わたしが考えた答えは、ハロプロにおける「イプシロン=歌」でした。
もしも一般の中学生が「悔しい」「妬ましい」と思ったら、不良同士つるんだり、今ならSNSに過激な発言をして憂さ晴らししたり、何かに当たってその場で散らすことが多いと思うんです。そういうことが反抗期に重なったりする。
ハロプロでも「悔しい」「妬ましい」はきっと存在する。けれど、歌を特訓し、ダンスでメンバーたちと心を合わせ、そして何より、ハロプロ曲の歌詞から人が生きる上で大切なものを学び、その歌の主人公の気持ちを思い、歌で演じ、それを披露する場がある。そうした活動のプロセスで心豊かな人間へと成長していく。ファンとの距離が近い今、その評価も聞く機会もありますね。
アルファ星とハロプロの幸福感を重ねてみた時に、人が清々しくあるヒントみたいなものを見た気がしたんですよね。
それに見事に感化されたのが、根がまっすぐで感受性豊かな工藤遥だったのではないかと思うのです。
「中二」はやがてキャラへ
工藤が好きな曲といえば、『君さえ居れば何も要らない』が思い浮かびます。子どもの頃、戦隊モノで主人公の隣でいい仕事をする「ブルー」になりたかったといいます*2。誰かのために居られることの喜びを知ったのかもしれません。
昨日、最後の『モー女』出演で懐かしい話が出ました。
--この6年で工藤さんがこんなことしてくれて嬉しかった、どぅーがこんなこと言ってくれて元気になった というエピソードを教えてくださいというメールに対して。
石田「『ミチシゲ☆イレブンSOUL』のツアーで、『私のでっかい花』という歌を私とはるなんと田中れいなさんで歌わせていただいていた時に、田中さんが体調を崩してしまってコンサートに出れないってなった時に、その3人の曲をどうやるかってなって、私はラップパートだけだったんですけど、田中さんのパートを(スタッフさんが)石田歌えるか?ってなって、歌ったんですけど、それを全力で励ましてくれたのがどぅーでした」
全員「お~」
石田「本番のステージに立つ直前まで、がんばれーって言ってくれてね」
工藤「憶えてる。ちょー憶えてる」
/ラジオ日本『モーニング娘。'17のモーニング女学院~放課後ミーティング~』(2017.12.09放送)
工藤「頑張れ!石田ー!!!」
※背中をバンっと叩いて送り出し、ありったけの声を挙げて励まして見守る。歌い終えた時は自分のことのように喜んでいた姿が印象的。
/MORNING MUSUME。 DVD MAGAZINE Vol.54(2013.09.21発売、2013.03.23夜の座間公演の舞台裏の様子)
ラジオを聴きながら、このエントリーを書いていて、驚きました。それだけ、工藤遥のらしさが詰まった場面だと思うんですよね。
生意気やカッコつけたことを言うんですが、とにかく根は純粋なんですよね。こういったエピソードを見聞きするうちに、「天使」「悪ガキ」といった表面的な部分に加えて、内面的な「いいヤツ」という魅力の厚みが加わっていった人も少なからずいたのではないでしょうか。
思えば、後輩が入る度に、面倒を見たり気にかける場面が増え、そうして慕われることで工藤本人も頼もしくなっていった気がします。歌ってきた等身大の歌詞の歌と、それを体現する仲間たちとの関係性が彼女を成長させていったのでしょうね。
工藤遥の「中二語録」みたいなものを時折見かけます。
それは、思春期の難しい心持ちを抱えて自問自答し、その中で思ったことを、ブログなりラジオなりコンサートMCなりで表に出して来た、いわば彼女の生き様です。やがて自分の道を見つけて、次へとステップアップしていくまで、全部をありのまま見せつけてきた潔さが彼女ならではの稀有な魅力です。
ショートカットにしたことをきっかけに、「ボーイッシュ」になり、やがて役柄を通じて居場所をつかみ「イケメン」キャラという役割を引き受けていく様子は、子どもが少年から大人になっていくリアルタイムの成長の物語であり、そこに魅力を持った人が集まっていたのだとすると、彼女は本能的に「役者」の仕事をすでに果たしていたのかもしれません。
普通だったら恥ずかしくて見せないところを、まっすぐな気持ちでやりきってみて、そうするうちに、心のどこかで見せることにやりがいを見出していました。
そして、いつの間にか「中二」ではなく「中二キャラ」になっていたと思うんですよね。
まもなくサンクチュアリ開幕ですw pic.twitter.com/V0KPQXZcsG
— 長谷川徹(電脳丸三郎太) (@toru723o) 2017年11月3日
ここまでやりきると、もはや工藤遥劇場の中二エンターテイメント。いつの間にか、自分でコントロールできる「キャラ」へと昇華して、気がつけば本人も楽しんでいました。
実年齢は18歳になったばかりです。それだけを見たらまだまだ若い。けれど、そうした脱皮の殻が完全に抜けきったことが明らかな今、その意味において、「卒業」は決して早くは無いのでしょうね。
つんく♂Pのメッセージ
つんく♂は今回のライナーノーツのエントリーで、こんなことを語っていました。
この曲は、工藤を送り出すイメージの曲ですね。
でも、結局それはどういうことか。
それは、若者へのエールソングだということです。
(※中略)
今、改めてこのライナーノーツを書くために自分の歌詞を見直しましたが、一行も無駄な行の無い、引き締まった歌詞だなぁと自負してしまいました。 なんか気に入りのセンテンスをあげようと思ってもさっきからずっと迷っているので。
でも、Bメロの
迷うも若人たちの特権
や
涙も若人たちの必須 が好きかな。
「迷うも」ってことは「迷わないも」ってのも含まれてるし、 「涙も」ってことはそれ以外に何があるのか考えるヒントでもあるしね。
でもやっぱフルで詰まってる曲ですよ!
/モーニング娘。’17 2017/10/4 sg ライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2017.09.02更新)
若者へのエールソング。確かに。そして、あぁなるほどなあと思える歌詞がずっと続いています。ここで挙げてるセンテンスだけでも実に深い。
例えば、「迷うも若人たちの特権」。
サッカーの楽しさを語る人の喩え話で、「野球は打ったあと3塁に進んだらいけないけど、サッカーは後ろに向かってドリブルしてもいい」なんて話があります。
真面目にお仕事する彼女たちに、つんく♂Pは、生きていくルールに縛られる必要も無いし、本気で生きてりゃそれでいいといった話を、歌詞を通して繰り返し伝えてきました。
迷った経験はこれからを生きる糧になるし、立ち止まってもいいし、もちろんがむしゃらに突き進んで何度でもぶつかってトライアンドエラーで学んでもいいし、若者の行動に正解なんて無い。何か行動すれば必ず何かが得られる。
そんな風に、どう転んでも得を享受できるというのが【若人という身分】に与えられた【特別な権利】である という訓示になっています。
そういった、娘。だけでなく若い人たちすべてに向けた、応援ソングになっているんですよね。
特に、つんく♂曲フリークの定説である「2番にメッセージがある」はこの曲にも当てはまりそうです。
「ほんとの私だって私なのだ」
「恋する年頃でもあるんだし」
「痩せたり太ったりもするもんだし」
「愛するあの人には見せられない」
※身近な悩みを無邪気に表現する年少メンバーたち。
人間誰しも、「食べない」「寝ない」は多少出来ても、「お腹が空かない」「眠くならない」は出来ません。
同様に、恋する年ごろに誰かを「好きにならない」なんて本来ありえないことで、悩んだり、やせたり太ったりするのも、人間らしい生活をしていたら当たり前のこと。
とはいえ、そういったアイドルらしからぬことは、残念ながらファンを悲しませたり、厳しいことを言われるかもしれない。だから、そういった人の目を気にし始めると、行動が縮こまり、自分の本音もまるでオフの日のすっぴんのように見せることが怖くなってしまう……。
多かれ少なかれアイドルの誰もが通る課題ですが、その後の歌詞で、つんく♂Pはこう言います。
「ほんとの私だって私なのだ」
※後輩たちの些細な悩みに、旅立つ人が答える。師の教えを代わりに伝えているかのよう。
そんな些細なことを気にしてはいけない。若者らしい悩みはあって当たり前のことなのだと肯定しているんですよね。悪いことをしているわけでないのなら、それも自分の魅力として全面に出してみればいいじゃないかと。
「What can I do? 『Do』」
「What can I do? 『Do』」
「できることあるかな…?」「とりあえず、やってみようよ!」
そんな些細なことをクヨクヨ思い悩むより Do すること(=行動すること)を、何よりもつんく♂Pは勧めています。
何が出来るだろう…?って悩んでいるところにメンバーも会場のファンも全員が全力で「Do!」って声かけたくなる場面を作っているのも心憎い。
「Do!」の掛け声のところは大いに盛り上がってくださいね!
/モーニング娘。’17 2017/10/4 sg ライナーノーツ|つんく♂オフィシャルブログ 「つんブロ♂芸能コース」 powered by アメブロ(2017.09.02更新)
「涙も若人たちの必須」
「涙も若人たちの必須」
※ここは涙を経験してきた年長メンバーが歌う。
評価や何点は気にする必要はないけれど、もし何か基準があるとしたら、その一つは「泣けるぐらいまで頑張ったか?」ということだと言っているのだと思います。失敗したとしても、結果が出た時に泣けるぐらいとことん頑張ったのなら、必ずそのプロセスで何らか得るものがあったはず。それこそが大きくなるための必須アイテムの一つだと言っているんだと思うんですよ。
ライナーノートで「涙も」に触れているように、それ以外にも沢山あります。いくつ知っているか、それが何なのか、それはその人の人生の数だけバリエーションがあって、それがきっとこれからを生きる糧になるのですよね。
卒業する工藤遥は、それらを学び、手に入れたからこそ旅立つ。
そうして、最後にこう問いかけるのです。
「ほんとの勝者は誰だ!?」
やりたいことを我慢して決められた目標にやみくもに取り組んで達成した人、ぶつかって失敗しながらも色んなことをやってみた人、あるいは、誰かの助けを借りて結果的に1番になってしまう人も世の中には少なくない。
勝ち負けを決めるとしたら、このうちの誰だろう。
※師の教えを伝える者が問いかける。
※さっきまで悩みを打ち明けていた年少メンバーが先頭に立って、画面のこちら側の若人に問いかける。
「ほんとの勝者ってなんだろうね」という問題提起がなされたまま、その後、まるで考える時間を与えるように間奏に入るのです。
こんなお題、若人だけでなく、大人だって考えさせられますよね。つんく♂Pは、時に、答えではなく考えるきっかけを与える。
※間奏の中に差し込まれる、ひとりぼっちの工藤遥(後述)
ハロプロで学んだ工藤遥があらわす言葉
活動を通して多くのことを吸収した工藤。先輩を敬い、後輩を気遣い、テレビ出演や取材のインタビューでも器用に振る舞う立派なメンバーになりました。だけど、彼女は飛び込むことにした。加入した頃のような気概は変わって無いのだなあと思います。
誰が勝者か、そんな答え合わせは歌の中ではしません。個々の価値観や各々の人生による、正解の無い問いです。
その代わり、このような言葉が添えられています。
「やってみなきゃわかんないこともあるだろし」
「何度もチャレンジすりゃいいじゃん!」
「結果を先に気にするな!」
工藤は歌詞をもらった途端に涙したといいます。
女優に挑戦する上での勝算なんか無い。どんな活動をするか、どんな役柄をやりたいか、ハッキリしたイメージや目論見なんかも、たぶん無い。でも、演じることの魅力を知った彼女は、それでもやりたい気持ちにあふれていた。だから、迷いながらも勇気を出して自分一人で決断した。
そんな彼女に尊敬する師が用意した歌詞が上のようなものだったんですよね。ものすごくストレートな励ましです。直接声で聞けなくても、びっくりマークをつけた言葉がまるで力強い声となって復元されるかのようにヒシヒシと伝わります。涙するのも無理のないことです。
つんく♂さんを始め、
沢山の方からの愛をダイレクトに感じました
これまで沢山の愛情を注いでもらいましたが、
最後まで、計り知れない量の愛をもらいました
本当に頭が上がりません。
ありがとうございます!
/September 工藤 遥|モーニング娘。‘17 天気組オフィシャルブログ Powered by Ameba(2017.09.01更新 ※新曲リリースの情報が出た日)
彼女が最後にもらったもの。それは、自分の決断は間違ってなかったのだという【安心】だったのだと思います。歌詞を通じた全力の後押しに、彼女の視界はたちまち晴れていったに違いありません。
工藤遥は、最後に授けられたこの曲を大切にし、意味を噛み締めて、そして、自分の言葉に置き換えて後を任せるメンバーに向けてこんな風に語っていました。
やっぱモーニング娘。って昔から、誰からも愛されるグループだなっていうのは思っていて、それは今後ももちろん当たり前にそうであって欲しいと思うし、なんかこう、今のメンバーって、世代が近かったりするから、同世代のファンの方がいらっしゃったりとか、少し前に比べたら女性のファンの方が増えたりとか、変化もかなりあったと思うから。
わたし、それの一つの原因…というか、きっかけって、一人ひとりの人間性というか、みんな、誰からも愛される人が集まってると思うし、さっき小田が言ったように野中のどんくさいみたいなキャラが愛おしいとかいうのもスゴく分かるし、そういう人間性をみんなそれぞれ好きになってもらってると思うんですよ。
だから、アイドルとしてとか、芸能人としてこうあるべきって色々あるかもしれないけど、自分のそもそもの、人としての良さだったり魅力だったりっていうのは失って欲しくないし、こう、どんどん色んなものが重なって自分というものを見失ってほしくないっていうのは、スゴくみんなに思うことなので、なんか、たまにはオフの姿をさらけ出すのもアリなんじゃないかな、今若いメンバーが揃ってるから出来ることなんじゃないかなとも思いますね。
/ 100%ヒッツ!スペースシャワーTV プラス『モーニング娘。20th Anniversaryスペシャル』(2017.11.19初回放送)※緊急座談会「モーニング娘。の未来!」のパート
「ほんとの私だって私なのだ」「若いんだし!」「勇気がそりゃ必要な時もあるだろが」「結果を先に気にすんな!」「やってみなきゃわかんないこともあるだろし」、、色んな歌詞とリンクしてくる。
キャラを作って、目立って、それによってグループに貢献できることもあるかもしれない。
けれど、そのキャラを作ろうとする過程で迷ってる自分をすべてさらけ出して、それもすべて引っくるめて好きになってくれた沢山のファンが居て、そういった人たちに彼女は感謝の言葉を惜しみません。ブログを見ると時折気恥ずかしくなるような感謝の言葉が語られています。
つんく♂の歌詞と工藤が身をもって体感したこと。それを踏まえて、彼女たちに伝えたい言葉を精一杯に伝えていました。
いやほんと、卒業が迫った今、みんなのことをもっと見るようになったというか、発表した時より寂しさみたいなものはもちろんあって。なんか、なんだろうな……。(涙声が混じり始める)
一人じゃここまで私も来れなかったですし、モーニング娘。として6年やってきて、今、このメンバーに見送ってもらえることが本当に幸せだなと感じているので、私が何か具体的に残せたこととか出来たことっていくつあるか分からないですけど、私はこれからも『モーニング娘。』っていう看板を、今度は一人で背負って頑張るから、みんなにも、頑張り続けて欲しいというか。
だから、もちろん自分のためなんですけど、みんなの力になれるように、私も頑張るので、みんなにも、OGの先輩方が言ってくださるように、『今 現役が頑張ってくれているからOGもこうして出れる』って、よく言ってくださるじゃないですか。というのを、みんなに求めたいというか。
これからも 一つのチームであり続けたい なと思っているので、私は『ありがとうございました』より『これからもよろしくお願いします』という気持ちです。
/ 100%ヒッツ!スペースシャワーTV プラス『モーニング娘。20th Anniversaryスペシャル』(2017.11.19初回放送)※緊急座談会「工藤遥から残されたメンバーへのメッセージ」のパート
「現役が頑張ってくれているからOGも出られる」という言葉は、本当に嬉しかったんだと思います。そして、自分も早くその言葉を使ってみたいに違いない。
きっとそういう存在になってくれるに違いないという信頼を寄せるとともに、それは押し付けでなく、これからも同じチームとして同じ目標を持ち続けようという、新たな始まりの挨拶でもありました。
それから、「一つのチームであり続けたい」という思いは、ちょっと前に別のインタビューでも、印象的な言葉で表していました。
--モーニング娘。20周年に寄せて。
工藤「モーニング娘。という看板は一生ついて回ります。今の'17体制は14人ですけど、実際はOGの先輩方も含めた41人。全員が永遠のモーニング娘。なんです。常にどこかで41人のメンバーが繋がっている……。それが私たちの誇りだし、守っていかなくやいけないものだと思っています」
幼い頃からハローで学んだ少女の言葉には混じりっ気がない。最後までまっすぐで、気恥ずかしく思えるような言葉でも妥協を見せない。だから、彼女には注目が集まるし、その言動は見逃せない。
やっぱりこの空は続いてる
結局あの人と繋がってるんだよ
そんな彼女が、『若いんだし!』という青春賛歌を最後に与えられ、まるで楽曲の世界と現実の彼女がシンクロするように、心からの気持ちで表す。
歌の中の主人公の成長そのままに彼女自身も最後まで貪欲に心の成長を求めていました。アイドルとしての最後にふさわしい役割を得たと思いました。
工藤遥が見た光景
それにしても、20周年を迎えたモーニング娘。は幸せそうな雰囲気に溢れていて、まるで桃源郷のような光景がこの Promotion Edit の間中ずっと広がっています。*3
※工藤を心待ちにする仲間たち。
幸せそのもので、まるで工藤が雲の上から世界を眺める『Top of the world』のような世界観。*4
※通常版MVでは見られませんが、まるで空から眺める工藤が自在に雲を動かしているようなフォーメーションダンスも魅力的ですね。
でも、終盤、あることが気になります。
一人で映る工藤遥。冒頭で一瞬映し出されたシーンが、「ほんとの勝者は誰だ!?」の後の間奏につながってきます。
そして泣きながら、でも笑顔をたたえると、再び現れる仲間たち。
この場面を見て思ったんです。
今までの景色は 工藤の記憶の中の光景 なのかなって。
過去のOGたちと同様たった一人の楽屋に違和感を憶えたり、過密なスケジュールから開放されてぽっかり時間ができたり。そんな時、一人でバスに乗る工藤遥は、ふと振り返る。
慕ってくる後輩、喜怒哀楽をともにした仲間。
思い出してホロッとなることも、きっとあるだろうなあと思うんです。
例えば、この映像を来年の桜が咲く頃に観たら、OG工藤のサイドストーリーがよりリアルに見えるような気がする。そんなことを考えました。
でもね、それは「帰りたい」「戻りたい」とは違います。なぜなら、工藤一人を乗せたバスは前に進み続けているから。これが大事だと思うんです。
目をつぶればまぶたの裏にはいつでも輝いた思い出たちがいて、それは決して夢でも何でも無く、自分が仲間と力を合わせて得てきたもの。もしくじけそうなときでも、束の間の休息で心をチャージして、再びスピードを上げるのです。
*Complete Edit では、そんなファンタジックな物語の答えが描かれていますので、まだ観ていない方は是非。
■
卒業が発表されて、あらためて彼女の足跡を辿ると、立派に成長したよなあと思います。
だけど、一つだけ曖昧なことがある。それは、彼女が描く女優像。
「この先どんな女優になりたいか?」と、少なくとも2回『ヤングタウン土曜日』で訊かれていました。一回は、卒業発表直後に「広瀬すずさんみたいになりたい」と答えていました。もう一回は、最後のレギュラー出演時に「月9や朝ドラに出たい」と。いずれもさんまさんがちょっとだけ返答に詰まっていて印象的でした…(笑)。
演技の種類とかでなく人気者になりたいなら、数千数万という女優たちの待ち行列に混じるより、名の知れたモーニング娘。のほうが近道なのでは……。還暦過ぎた年齢からか、親心がはたらいたか、ギラギラしたさんまさんらしからぬ優しさが垣間見られました。*5
でも、「チャレンジしたい」と思った瞬間に湧き出るパワーを活かして突き進むことが、若い旅立ちの何よりの強みなんですよね。
上で挙げた「ほんとの勝者は誰だ!?」という答えのない問いかけ。
モーニング娘。での活動を通じて工藤が信じる答えは、「決して近道でなくても一つ一つの経験を積み重ねた者」なのでしょう。
また再び、モーニング娘。になったあの頃のように居場所を見失って、壁にぶつかるかもしれない。今よりも重い悩みに逃げ出したくなることもあるかもしれない。
乗り換えた次のバスはスピードが落ちるかもしれないし、道はデコボコかもしれない。正しい方向に進んでいるのか、分からなくなるかもしれない。
でも、大丈夫。
夢を追いかけることはモーニング娘。の活動とつながっている。くじけそうになっても、これからも仲間たちと並行して走り続ける。モーニング娘。は永遠にモーニング娘。だから。常に仲間とつながっているから。
私はモーニング娘。だから。
だから、大丈夫。
そんな大切な宝物を胸にしまって、彼女は旅立つのです。
◆ ◆ ◆
小田「早く主演映画の主題歌歌わせてください……」
工藤「頑張るね!(笑) 頑張るよ!(涙)」
*1:高校生メンバーは全国プロモーションの最中で、中学生メンバーは学校が終わった後の事務所で。今見ると本当に初々しい。
*2:工藤「基本、レッドが主役じゃないですか。でもブルーがいいんですよ。なんかスゴくいいところに居るんですよね。それが好きで。」
つんく♂「ルパンで言うたら、次元や!」
工藤「ルパンはちょっと分からないです……」w
/Hello! Project DVD MAGAZINE Vol.36 つん倶楽部ⅡDX
*3: Complete Edit ではもう一つのテーマが描かれていて、これも別の機会に語りたいです。
*4:「I am on the top of the world looking down on creation and the only explanation I can find.
*5:
さんまさんが「モー娘。にいたほうがええんちゃうかなと思うんやけどね」なんて言ってるのを聞くと、それは年齢からなのか、あるいは親心か、鞘師のことも気にかけてくれてたけど、好々爺のような感じが年々増してく気がする。
— もかまっちゃ (@_mochamacha_) 2017年12月9日